1ページ目から読む
4/5ページ目
杉元/尾形の関係を封じる、「鶴見中尉への執着」
アシㇼパ一行に同行する尾形は、当初彼らに全く心を開いていなかったが、「我々がたくさん叩いたもの」を意味する料理チタタㇷ゚に参加し、杉元やアシㇼパと友好的な関係性を築く可能性は仄めかされていた(13巻127話)。
しかし、最終的には、杉元のキスもアシㇼパとのチタタㇷ゚もまったく影響がなかったかのように、男性器を図像的に模している鶴見への執着に回帰してしまう(31巻304話)。作品の構造としては筋が通っているが、読者からはかなり面食らう展開ではあった。
前回論じた上エ地の場合もそうなのだが、父親の持っている力(ファルス)に対する執着は登場人物の造形を深めるために配置されているというよりは、あくまで異性愛家族主義に向けて物語を動かすための推進力としてのみ使われている。
男性同性愛が仄めかされる『ゴールデンカムイ』の中で、尾形には鶴見への執着から脱出する可能性への回路あるいは救済が、あらかじめ作品中で提示されてはいる。だが、作品の構造はファンたちがBL的二次創作的解釈をすることをも前提とした上で、尾形の別の可能性をギャグと鶴見への執着で封印してしまう。
『ゴールデンカムイ』という作品は、男性同士の性的な関係性と異性愛家族規範に基づく物語という二つの意味の層を作り出しながら、ギャグによって前者を忘却させ、後者を強化する構造を持っているのだ。