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「このクマ、どっかおかしいんじゃねえのか?」北海道で31頭の牛を殺した謎のヒグマを追うリーダーが感じた“違和感”

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2023/07/14

genre : ライフ, 社会

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 私自身がOSOに関する報道を追う中で、最初に「おや?」と思ったのは、襲われた牛が必ずしも「食害」されているわけではないという事実である。特に2021年7月には7頭の牛を襲い傷つけながらも1頭も食べていないというケースが報告され、牧場関係者は「OSOは、牛をもて遊び、ハンティングを愉しんでいるようだ」と呻いた。

 だが私が知る限りでは、「愉しみとして家畜を襲うクマ」というのは聞いたことがなかった。本当にそのようなクマが存在するのだろうか――? この「謎」をぶつけるべき人物は、道東にいる。

2021年6月、札幌市内に出没したヒグマは茂みに隠れていた ©時事通信社

日本で最もOSOに詳しい男たち

 2023年6月9日。この日、北海道東部はこの時期特有の濃霧に覆われていた。新千歳から中標津へ向かうANA4883便の機内では、当機は到着地の天候次第では新千歳に引き返す可能性もある〈条件付き運航〉である旨のアナウンスが流れる。その言葉を裏付けるように新千歳を飛び立ってからというもの上空は厚い雲に閉ざされ、気流の乱れにより機内サービスが中止されるに至って、「今日はダメかな」とひそかに溜息をついた。だが45分のフライトの最後の最後になって、雲の切れ間から滑走路の誘導灯が見えたかと思うと、飛行機は無事に道東の玄関口、中標津空港に降り立った。

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 こんな日にここまでやってきたのは、日本で最もOSOに詳しい男たちに会うためである。

「なんだ、やけに遅ぇから、飛行機飛ばなかったのかと思ったよ」

 そう言いながら、標津町にある事務所の奥からのっそりと現れたのはNPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」の主任分析官、藤本靖である。ヒグマの生態調査と有害駆除を手掛けるエキスパート集団の参謀役を担う藤本には過去何度か取材したことがあったが、最近ではもうひとつの肩書きの方で世間の注目を集めつつある。それは「OSO18特別対策班」リーダーというもので、彼は昨年から北海道の委託を受けてその任に就いた。そのため私も電話などで時々OSOに関する情報を藤本に聞いてはいたが、改めてOSOのことを書くならば、標津まで飛ばない手はなかった。

ハンターの赤石正男氏

 事務所で私を待っていたのは藤本だけではない。藤本の盟友である“現役最強のヒグマハンター”赤石正男もいた。言うまでもなく赤石も「OSO18特別対策班」のメンバーである。

 私が知る限り、OSOについて日本で一番詳しいのは彼らをおいて他にはない。