「ヤツは人間の匂いがしたら絶対に近寄らないから」

 OSO18について語るとき、「OSO18特別対策班」リーダーの藤本靖とエースハンターの赤石正男の口からはしばしばそんなフレーズが飛び出した。元来クマは人間の存在を察知すると自ら避けるのが普通だが、OSOの場合はそれがさらに徹底しているという。(全4回の3回目/#4に続く)

2021年6月、札幌市内に現れた体重158キロのオス ©時事通信社

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左尻に2本線の傷

「老獪ではあるが普通のクマ」であるOSOに特別な点があるとすれば、それはその異常なまでの人間への警戒心の強さと言えるかもしれない。

 では、なぜOSOはそこまで人間を警戒するようになったのか。

 その手がかりは、OSOの姿を捉えた画像にある。

 ネット上で「OSO18 画像」で検索すると、OSOが最初に人間社会に現れた2019年8月に標茶町に設置された定点カメラの動画から切り出された写真が出てくるはずだ。これを子細に見ると箱罠の前を横切るOSO18とされるヒグマの左後肢から尻にかけて「2本線」の傷のようなものが走っていることがわかる。この傷について藤本は「最初に箱罠にかかったときのものではないか」と推測する。

「OSOが出た当初、地元で設置した箱罠の出入口を閉じる扉にギザギザがついていたことがあった。俺が見る限り、その箱罠は奥行が短かったので、OSOは全身を入れることなく半身を突っ込んで奥のエサだけ取ろうとしたんだと思う。そこでギザギザのついた扉が尻に落ちてきて、OSOは驚いて逃げたんじゃないか」

 この経験はOSOにとってトラウマであり、人間の臭いのするものへの警戒心を最大限まで高める痛い教訓となったはずだ。以来、OSOは箱罠に接近した形跡さえない。

エゾジカを食って肉の味を覚えた

 この「左尻の2本線」は、藤本らがOSOを特定する際の重要な目印になっている。

「2022年の2件目の被害後、現場付近の定点カメラがヤブの中で牛の死骸を貪るOSOの姿を捉えていますが、この2本線が映っています。ちなみにこのときOSOは2時間半にわたり牛を食べており、食べるために牛を襲っていることが裏付けられました」(藤本)

 それにしてもなぜOSO18は牛を襲うようになったのか。ヒグマは雑食性だが、食料の8割から9割は木の実や山菜など植物性のもので、残りはアリやハチなどの昆虫類、あるいはサケ類などである。過去には牛や綿羊など家畜を襲った事例もあるが、1頭のクマがここまで執拗に牛を狙うのは非常に稀なケースと言っていい。

 その一方で近年、北海道ではヒグマの食性に影響を与えかねない問題も起きている。

 エゾジカの爆発的な増加である。藤本がその背景を説明する。