「くくり罠」の大誤算
実は、このオソベツのデントコーン畑にOSOが入っていることがわかったのは、刈り入れまで1週間というタイミングだった。そこにデントコーン畑がある限り、OSOは何度でも通ってくる可能性が高いが、刈り入れられてしまえば、またどこかへと移っていってしまう。そこで藤本たちはラストチャンスにかけて、「くくり罠」を設置した。
「くくり罠」とは、獲物の通り道にあらかじめ設置し、ワイヤーでできた「輪」の中に獲物が足を踏み入れると、バネが作動し、ワイヤーが一気に締まって獲物の足を捉える罠だ。
くくり罠の「肝」は、設置する場所とカモフラージュの仕方にある。OSOがどこから現れ、どこを歩き、どこで立ち止まるのか。そしてどこで罠に足を踏み入れさせるのか。まるで見てきたかのように獲物の行動を予測して罠を仕掛けることは赤石が得意とするところでもある。
「罠にちゃんと入るように、段差のところは『階段』まで作ってやったからね」(赤石)
果たして罠をかけた翌日、OSOは罠に足を踏み入れていた。だが罠は作動しなかった。
「あれはね、大失敗」と赤石が苦笑しながら頭を掻く。
「(OSOのパワーを警戒して)太さ6ミリのワイヤーを使ったのがまずかった。ワイヤーが重いもんだから、バネの跳ね上げスピードが遅くなって、OSOはワイヤーの上を踏んで抜けてしまった。4ミリのワイヤーにしておけば、あのとき獲れてたはずだった」
こうして藤本らのチームがOSO捕獲に乗り出して以来、最大のチャンスは潰え、OSOは再び広大な釧路湿原の中へと姿を消した。だが赤石はこう断言する。
「一度、肉の味を覚えたクマは、消えたように見えても、いつかどこかでまた必ずやる。獲るまで終わらねぇよ」
この赤石の“予言”は的中する。
(#4に続く)