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「これで女友だちと温泉に行ける」――乳がん経験者の「人工乳房」という選択肢

ブレストケア京都 #1

2018/03/20
note

母から「私のおっぱいを作ってほしい」と頼まれて

──林さんが「人工乳房」に関わったきっかけは?

 乳がんの手術で乳房を失った母のために、名古屋市の人工乳房製作会社「池山メディカルジャパン」の人工乳房製作技術者養成講座に通ったのがきっかけです。

 私は以前、軽量樹脂粘土を使った陶芸教室の講師をしていたのですが、乳がんを患った母に「名古屋に人工乳房の作り方を教えてくれるところがある。そこに通って、私のおっぱいを作ってほしい。粘土の先生だからできるやろ?」と懇願され、初めて人工乳房の存在を知りました。

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母のひろみさん。今は一緒に「ブレストケア京都」で働く

──陶芸の講師をされていた経験が、役に立ったのですね。

 それがまったく役に立たなかったんですよ(笑)。

 私が扱っていたのはふわふわの粘土で、人工乳房の型取りをする粘土は、石のように硬いんです。素材もやり方も違えば、目的も用途もまったく違います。

「陶芸講師だから粘土の扱いには慣れている」なんて、見当違いもいいところでした。でも、母のためにという気持ちや、やると決めたからにはやり遂げたいという思いがあって、必死で養成講座に通いました。

「ブレストケア京都」で使っている粘土。非常に硬く、ドライヤーの熱を加えてやわらかくしながら作業する

──スクール卒業後、すぐに独立して会社を立ち上げたのですか? 

 まさか! 人工乳房は個人によって目的や状態が異なるので、技術的にもとても難しくて、養成講座を卒業したからといって、誰でもすぐに作れるというわけではないんです。

 私が養成講座に通ったのは、「母のために人工乳房を作る」ことが目的だったので、「自分で作れるようになるまでは」と、卒業後も製作方法を学びながら営業として3年間池山メディカルに勤務し、技術を身につけました。

自分一人でできることに限界を感じて「仲間を増やしたい」

──人工乳房を製作する会社は全国にどのくらいあるのでしょうか。

 人工乳房だけを専門で作りながら養成スクールも運営している会社は、ごくわずかです。乳房以外に義肢装具の製作も行っているメーカーや専門学校はいくつかありますが、お客様のご希望通りの人工乳房を製作できる「ブレスト・アーティスト」となると、日本ではまだ一握りかもしれません。

 私が会社の設立と同時にスクールを立ち上げたのは、自分一人でできることに限界を感じたからです。まずは「『ブレスト・アーティスト』の仲間を増やしたい。そこから広めていこう」と思いました。