「人工乳房」を知っている医師はほとんどいなかった
──ひと昔前までは、「乳房再建」という考え自体も、今ほど広まっていなかったのでは。
林 私が養成講座に通っていた時は、京都市内の大きな病院でも「人工乳房」を知っている医師はほとんどいませんでした。
今はがん手術での同時再建を選択する方も増え、人工乳房も少しずつ認知されるようになりましたが、まだまだ知られていませんね。乳房温存や再建手術の手術痕に悩む方も大勢いらっしゃいますので、一人でも多くの方に、「人工乳房」という選択肢があることを知ってほしいと思います。
──乳がんの患者は年々増加し、低年齢化も進んでいますが、やはり人工乳房を作りたいという方は、若い女性が多いのでしょうか。
林 そんなことないですよ。多いのは40〜50代ですが、20代から80代までいろいろな年代の方がいらっしゃいます。
女性にとって、乳房を失うというのは、身体にも心にも大きな負担ですよね。
年配の方の中には、長年苦しみやつらさを自分だけで抱え、我慢して生きてこられた方もたくさんいて、「ここに来て初めてつらかった気持ちをはき出せた」というお客様もいらっしゃいます。
「これでお友だちと温泉に行ける」と涙を流して喜んでくださる方もいて、そんな時は本当にこの仕事をやっていてよかったと思います。
──80代ですか! やはり女性はいつまでも「女性」でありたいものなんですね。
林 人って、見かけでは判断できないんです。「この人、そんなに気にしてはらへんやろう」っていう人が、話を聞いてみたら実はずっと心に悩みを抱えていることもあります。実際、私の母もそうでした。「人工乳房を作りたい」と思うほど本人が悩んでいたことを、私はずっと知らなかったんです。