猫は紛れもなく世界を制覇している。多くの国で猫の飼育数が犬を上回り、猫が経済効果をもたらす、いわゆるネコノミクスは絶大だ。特にインターネットの世界では、猫が他のどんな可愛い動物をも圧倒する。
我々はどうしてこんなにも猫に魅せられるのだろう。何か裏がありそうだ。事実本書では単なる猫礼賛ではなく、猫がこれでもかというほどダークな側面を持っていることが紹介される。
まず、猫の代表的な取柄とされるネズミ捕りだが、実は仕事をしているふり程度の働きしかしておらず、根本的な役には立っていないという。
猫による癒しが健康をもたらすのではないかと考えたくなるが、犬が飼い主の健康に大いに役立っている一方で、猫はむしろ飼い主を肥満させ、血圧を高め、再入院や死亡のリスクさえも高めるという。
もっと恐ろしいのは猫がトキソプラズマという寄生性の原虫を媒介するということだ。トキソプラズマはかつて妊婦が用心すべきと言われてきたが、今ではアルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、双極性障害、統合失調症、不妊などとも相関があるとされている。
そして猫は、たとえ飼い猫であったとしても、ひとたび家の外に出かければ生態系の最大の破壊者となり、気まぐれな狩りによって希少な種を滅ぼし続けている。
こんな危険な動物、害しかもたらさないような動物でありながら、なぜ我々は虜となってしまうのだろう。
私はかねがね、誠実で忠実、意思疎通もはっきりできる犬と比べ、猫は何ともつかみどころがない。もしかしてそれは、我々のほうが猫にいいように手なずけられているのではないかと考えてきたが、この本を読んでその直感が正しいことがわかった。我々は天性の人心掌握術を持ち、実は我々にとって最も大切なある存在に擬態しているこの小動物に、心身を乗っ取られてしまっているのである。
とはいえそれこそが猫の底知れぬ魅力の元なのだが。
アビゲイル・タッカー/ライター。『スミソニアン』誌記者。彼女の記事は、最も優れた科学読み物を選ぶ「ベストアメリカン・サイエンス&ネイチャー・ライティング」にも掲載されている。マイク・バーガー賞他受賞歴多数。大の猫好き。
たけうちくみこ/1956年愛知県生まれ。動物行動学研究家。著書に『同性愛の謎』『本当は怖い動物の子育て』『騙し合いの法則』など。