でも、打ち上げで20代の若い俳優と飲んでいるときに、「俺がチャンスを掴めたから、君たちも掴めるよ」なんて無責任なことはどうしても言えず、「きっと、ここにいるほとんどがいずれ俳優を辞めるだろうし、進んでも茨の道が待っている可能性の方が高い。それでも続けるなら頑張れ」という話をしたんです。
そしたら、別の作品を担当した作家の太田善也が隣の席に来て、こう言ったんです。「でもね、僕も二朗さんもそうだけど、続けていれば何かが起こるかもしれない。諦めずに長く続けた中で出会えた人や体験が、今の僕を支えているんだ」って。
――それぞれの言葉に重みがありますね。
佐藤 俳優を続けるのは茨の道だし、センスがないとやっていけないのも本当。でも、太田善也の言うことも間違いないんですよ。実際に僕だって諦めずに続けてきたから、今俳優をなんとかやっていますからね。
息子が俳優に興味を持ったら、体を張って反対する理由
――俳優として活躍している今の佐藤さんの姿を見て、お子さんが同じ仕事に興味を持ったりはしていませんか?
佐藤 今のところはないですけど、いつか「俳優になりたい」と言われたら、まずは体を張って反対すると思います。
――それは、茨の道だからでしょうか。
佐藤 僕の好きな言葉に「画家になりたい人が画家になるんじゃない。絵を描きたい人が画家になるんだ」というものがあります。俳優も同じで、「俳優になりたい人が俳優になるのではなく、芝居をしたい人が俳優になる」と僕は思うんです。でも、もし息子が俳優を目指す理由がその前半部分だったら、全力で反対しますね。
普段息子が見ている僕は、野球中継を見ながらお酒を飲んでいるようなだらしない姿が多い。でも2人で出かけると、ありがたいことに「握手してください」「サインください」と声をかけられることもあるんですよ。
彼が父親のそういう姿を見て「俳優の仕事って楽なのに派手でいいな」と興味を持つ可能性もある。だから最初は、辞めたほうがいいぞ、辛いぞ、と反対しようと思っています。
でも、もし「芝居をしたい」から俳優になりたいと言うのなら、茨の道だろうがなんだろうが、彼を全力で応援するつもりです。
撮影=石川啓次/文藝春秋
スタイリスト=鬼塚美代子/アンジュ
ヘアメイク=今野亜季/A.m Lab