ドラマや映画、舞台にひっぱりだこの俳優・佐藤二朗さん(54)が、2023年6月に初のコラム集『心のおもらし』(朝日新聞出版)を刊行した。コラムでは、フォロワー数200万人超を抱えるTwitterでもおなじみの「妻」への溺愛っぷりや息子の面白い発言に加え、俳優としての演技への想いなども綴られている。

 俳優歴20年以上のベテランである佐藤さんは、「俳優」という仕事をどう捉えているのだろうか。また、役作りをする際、日常の出来事をどう切り取って自らに落とし込んでいるのか。話を聞いた。(全2回の2回目/1回目から続く)

佐藤二朗さん(撮影=石川啓次/文藝春秋、スタイリスト=鬼塚美代子/アンジュ、ヘアメイク=今野亜季/A.m Lab)

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俳優は、やりたいと思ったらいつまでも続けられてしまう

――佐藤さんとパートナーは、同じ俳優研究所で出会って付き合い始めたそうですね。しかし、パートナーが俳優の道を諦めたきっかけは、佐藤さんの「向いていないから辞めたほうがいい」という言葉だったとか。

佐藤 新宿の「スペース・ゼロ」で毎年、「ラフカット」というプロジェクトをやっているんです。有名な作家4人が、まだ売れていない若い俳優をオーディションで選んで、力試しの場を提供するというもので。今年で29年目を迎えたんですけど、僕も妻も、昔そのオーディションを受けていたんですよ。

 妻は第1回目のオーディションから受け続けていて、僕が初めて受けた第3回目のオーディションも受けたんです。僕はそこで合格して主役に選んでもらえたけど、彼女は3度目も落ちてしまった。そのタイミングで「向いていないから辞めたほうがいい」と伝えました。

 でもそれは決して、僕が受かって彼女が落ちたから言ったわけではなく、前々から思っていたことだったんです。

 

――そのエピソードを拝見した時、結構衝撃的でした。当時、すでにパートナーとお付き合いしていたと思いますが、言う方も言われる方も、かなり辛いと言いますか……。

佐藤 僕が思うに、俳優って“泥仕合”なんですよ。売れなくても、やりたいと思ったらいつまでも続けられてしまう。「向いていない」なんて誰にも言えないし、もちろん面と向かって言う人はいない。

 僕は当時から妻のことを、「結婚するならこの人しかいない」と考えていて、とても大切に思っていた。だからこそ、こんな言いづらいことをはっきり言えるのは、彼女の一番近くにいる僕しかいないと思ったんです。

――佐藤さんは、どういう人が俳優に向いているとお考えですか?