佐藤 これはもう率直に申し上げて、「いい芝居をする人」。これに尽きるし、これ以外はいらないと思います。「いい芝居」という曖昧な指標に必要なのは、これまた曖昧この上ない「センス」というものだと思います。目に見えず、曖昧この上なく、しかしこの上なく大事な「センス」という代物が非常に大切だと。
「あの俳優、演技上手だよね」と言われることへの違和感
――俳優の世界の“センス”についてもう少し詳しく教えていただけますか。
佐藤 以前、芸人の小峠英二と飲んでいたとき、「芸人は笑いの多寡で優劣が決まる。スポーツ選手はもっと明確で、数字でその人の能力が分かる。じゃあ俳優はどこに線引きがあるんですか?」って聞かれたんですよ。そのとき、答えに困っちゃったのですが、明確な優劣の基準がないのが俳優の世界だと思っています。
たとえば、30年以上経験を積み上げてきたベテランが、子役の演技に「喰われる」ことがある。演技経験のない人が、驚くようないい演技をすることもある。つまり、これまでの経験が物を言わない。だから面白い世界とも言えるんですが。
しかし信じたいのは、「凄くいい芝居」は、誰が見てもいいということ。そして俳優は、他のことが全然ダメでも、「芝居」に関してだけは特別で、みんなが砂をかじっていたら、こっちが水なんだよと示す力がなければと思うんです。芝居のセンスや才能に関してだけは。
――なるほど。ただセンスや才能の話になると、「俳優は特別な人しかなれないってこと?」と思う人もいそうです。
佐藤 話がそれるのですが、テレビ局の若手アナウンサーと飲んでいたときに、その子が酔っ払って、「何者かになれる、才能のある人ばかりじゃないんですよ」と泣き始めたことがあるんです。それを聞いて「確かにそうだよな」と思って。
それでも僕は、俳優の世界は「センス」や「才能」が大事にされる世界であって欲しいと思うし、そういう能力を持った人に演技をしてほしいんですよね。だって、センスがある人達の芝居が見たいじゃないですか。
それに俳優だけに限らず、野球でも絵でも音楽でも陶芸でも、どんな分野でもプロになるためにセンスは必要ですよね。
――それはおっしゃる通りですね。
佐藤 ただ、ドラマや映画などで演技を見る機会が多いし、さっきも言ったように優劣の線引きが難しいから、俳優という仕事は簡単に評価されやすい。だから一般の人からも、「あの俳優、演技上手だよね」とか言われることが多い。
でもそれって、プロ野球選手に「野球、上手ですね」と言うのと似たような違和感が正直あります。
こういう話をすると、「何を口うるさく、暑苦しく演技論を語ってるんだ」という声もありそうですが、自分が人生を賭けて生業にしてることを口うるさく暑苦しく語れないでどうするんだと思います。