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「絶対ヒットさせたいの。頼むね」

 数日後、イイジマサンが僕を番組のプロデューサーの所に連れて行ってくれた。寝ずに書いた数十個の企画案を出すと、「いいね! おもしろいね」ととてもおもしろがってくれた。

 そして、「この番組はね、スキーがスノボになって、ディスコがクラブになったようにね、彼ら6人がやることで、今までやってきたことでも、器が変わって味付けが変わって、新しいものに見えると思うんだ」と説明してくれた。

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ジャイアンツのユニフォームを着て、一人現れた

 だが、番組スタートを前に、「モリクン」がグループ脱退を申し出る。番組は初回から視聴率20%を超える上々の滑り出しを見せる。だが、その日はやって来る。モリクンの脱退会見。そこに現れたのは……。

 

 会見が始まる。超トップアイドルの脱退を伝える囲み会見。

 そして。そこに、やってきたのは。

 モリクンではなく。

 リーダーだった。

 大好きなジャイアンツのユニフォームを着て、一人現れた。

 驚く記者たち。

 記者たちが「え?」「どういうこと?」「モリクンは?」と声にする。

 そこでリーダーが切り出した。

「あいにくモリクンのスケジュールの都合がつかず、欠席となります」

 と言うと、記者が思わず笑いながら「おかしいでしょ」と突っ込む。

 この瞬間。

 まんまとリーダーの狙っていた空気になった。

 僕はイイジマサンから聞いていた。

 本当はモリクン1人での会見だったはずなのに、急遽、リーダーが「俺も出るよ」と言ったことを。

 そして、「モリクン」にとって番組最後の出演となる卒業スペシャル収録へ。「リーダー」は、一度はマイクをもって進行しようとするが、溢れる涙で話すことが出来ない。それを見た「タクヤ」が急遽、進行を始めた。そして「ツヨシ」が、堪えきれない涙を流して、こう言うのだった。

「モリクンはこれから始まるから」

 鈴木おさむ氏による「小説『0909~そして、みんなで、あの日に、ピース~』」は、「文藝春秋」2023年8月号(7月10日発売、「文藝春秋 電子版」では7月9日公開)に、22ページにわたり掲載されている。

文藝春秋

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小説「0909」~そして、みんなで、あの日に、ピース~

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