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シャガン 私はユダヤ人だけど、西洋文化はキリスト教の影響が強い。キリスト教の世界ではセックスは「sin(罪)」、つまり悪いことと位置付けられている。人間の始まりであるアダムとイブが初めて犯した罪は、セックスをしたことです。人間は、もともと悪い部分があるという考え方があるんですね。ところが、春画で表現される世界は、真逆のものでした。奔放に性が描かれ、喜怒哀楽がオープンになっていた。

 この歌川国貞の春画を見てください。彼は、浮世絵史上トップクラスの作品数を残し、役者絵と美人画を得意とした絵師ですが、たくさんの春画も描いています。この春画は、浮気相手を探す亭主と、必死で押入れをふさごうとする女房が描かれているわけですが、性器が丸見えで、“恥も外聞も捨てて”とはこのことです(笑)。

歌川国貞「開談夜之殿」1826年(シャガンさん提供)

衝撃的だった「春画の表現」

――まるで“文春画砲”ですね……。クローゼットのない江戸時代は、押入れに隠れていた、と。

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シャガン 押入れに隠れる浮気男は、拝み倒して修羅場を避けたい。でも、アソコは勃ったままという下心は隠せていないのが面白いです。この絵がいやらしいものとして重宝されていたとは思えません。笑いが込み上げてくるくらいでしょ? 春画は、こうしたゴシップも扱っていたわけです。

 いい風景、いい匂い、いい音楽、これらはすべて体の穴から入ってきて育つもの。隠せるものではない。その時代のモラルを守った上で、本来はそうあるべき。“隠さない”という春画の表現は、大変衝撃的だった。うなぎ屋やそば屋がラブホテルとしても機能していたことを、私は春画を通じて知ったくらいです。

菊川英山「婦多葉能栄え」1808年(シャガンさん提供)

――春画を通して学べるのは、江戸時代の性のあり方だけではないというわけですね。奥が深い……。

シャガン 話を戻しましょう。私は、池袋で見つけた春画を気に入りました。しかも、ラッキーだったのは1万円という安価で、とても状態の良いものを手に入れることができたこと。この出会いをきっかけに、私は春画をコレクションするようになり、勉強するようになりました。

 集めていくと、自分のコレクションが博物館にあるものよりも、状態が良いということもわかってきたし、コレクションの数も増えてきました。ただ、自己満足ではないけど、途中で何のために集めているのか分からなくなった時期もありました。

 そこで、北斎といった有名なアーティストの作品だけではなく、春画に描かれている内容を重視して買うようになりました。たとえアーティストが不明でも、メッセージがあるものを買おうと。だから、私のコレクションは、多種多様なものになっていったのです。