江戸時代に流行した、男女の性風俗の様子を描いた浮世絵である「春画」。その世界一のコレクターが、日本に居を構えるイスラエル人であることは、まったくと言っていいほど知られていない。
来日して約30年のオフェル・シャガン氏は、1万2000点以上の春画を所有する蒐集家であり、これまでに国内外でさまざまな春画展を開催してきた古美術研究家でもある。
なぜ春画に魅せられたのか? 奇想天外なコレクションを見ながら、春画の独創性について語ってもらった。(全2回の2回目/最初から読む)
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――春画というのは、一体、どこで手に入れることができるのでしょうか?
シャガン それはシークレット。自分が支持する政党を人前で言わないのと一緒(笑)。ですが、古美術店に置いているケースもあれば、古い家屋や蔵に眠っているケースもあります。
私が集め始めた頃は、春画の価格は今の10%程度だった。ものすごくリーズナブルなものでした。しかし、ここ最近は春画が世界的に評価されていることもあり、価格が上昇している。私の感覚でいえば、昨年1年間で50%以上値段が高くなっていると感じています。
「日本人は、春画の価値にまだ気付いていない」
――そんなに価値のあるものとして扱われるようになっているんですか!?
シャガン そうです。ただ、春画の生みの親である日本人は、その価値にまだ気付いていない。人間というのは、自分のおでこを自分で見ることはできないから(笑)。相手から言われないと分からない。日本人のお金持ちは、シャガールやピカソには何億というお金を出すじゃないですか? 私からしてみたら、なぜ浮世絵や春画をスルーするのか考えられない。
――海外ではどのように受容されているのでしょうか。
シャガン 2013年に、ロンドンの大英博物館で「大春画展」が開催された際、「外国で春画が人気になっている」と日本でもニュースになりました。春画の魅力は、いつも逆輸入という形で紹介され、「海外で話題」という付加価値がつかないと、ここ日本では関心が生まれない。日本の素晴らしい文化なのにもったいない。
――ただ、やはり日本では春画を“エロ”とみなす傾向があります。
シャガン “ポルノグラフィ”という言葉は、もともとは英語ではなく、ギリシャ語です。ポルノは売春婦を意味し、グラフィは絵を意味します。私は約1万2000点の春画を保有していますが、吉原を舞台にした春画はとても少ない。あったとしても、遊女たちの悲喜こもごもを描いている。