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 春画に描かれた花魁が差しているかんざしや着物などは、ファッションや流行を伝える側面もあったため、当時の女性たちも日常的に春画を見ていたし、強姦や不道徳とされるシーンを描く場合は、男性の顔が極端に醜かったり、しっぺ返しを食らうなど、“やってはいけないこと”を伝える教育の部分もありました。決して恥ずかしいものじゃない。

「春画はポルノである」という論調に思うこと

――流行や道徳を説明するツールでもあったと。

シャガン ポルノは、個人の性欲高揚や自慰行為のためのツールだと思うのですが、そのような役割を持つ春画は大変少ない。

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 たとえば、歌川豊国の春画を見てください。驚くほどにユニークでカオティック。女性器が幽霊となって、男性を取り囲んでいる。この絵を見てエロティックな気持ちになる人なんていないと思います(笑)。こうした多種多様な春画があるからこそ、私はポルノの道具だと思わない。実は、「春画はあくまでポルノである」という論調は、日本だけではなく海外にも存在します。

歌川豊国「三つ組盃」1825年(シャガンさん提供)

――海外でも手放しに賞賛されているわけではないんですね。

シャガン そうです。春画を研究しているあるイギリス人学者は、「露悪的なエロティックなカルチャーである」とネガティブな発表をしているほど。しかし、私も大変お世話になった春画研究の第一人者でもある故・白倉敬彦先生は、「純粋な芸術として評価すべき」と反論した。春画はポルノではないと説く日本の研究者もいるんですね。

遺品の春画を家族が捨ててしまうケースも

――過去、春画を掲載した週刊誌4誌が、「わいせつ図画頒布罪」に当たる可能性があるとして警視庁により口頭指導を受けたこともあります。それこそ、文藝春秋も春画とは因縁浅からぬ仲です。法律の問題もあって、日本では春画に対するイメージが画一的かもしれません。

シャガン 春画は、明治5年の違式詿違条例(いしきかいいじょうれい)によって規制されていきます。明治時代に作られた法律に則る形で、わいせつの基準が定められてきました。

 分かりやすい例でいえば、アダルトビデオ。アダルトビデオは、局部にモザイクをかけているから、誰でも見ることができる。しかし春画は、局部にモザイクをかけていないから、“わいせつなもの”と見なされ罰せられていました。もっとわいせつなものがあるのに、どうして春画はNG? 

歌川国芳「当盛吾妻婦理」1831年(シャガンさん提供)

 現在、春画は展示方法や取上げ方によっては、刑法175条(※)の問題が生じる可能性があるとされていますが、以前に比べればはるかに目に触れやすくなりました。しかし、長い間、わいせつなものと見なされてきたため、固定観念ができてしまっていることは否定できないと思います。

 私が大変ショッキングだったのは、おじいさんやおばあさんの遺品として春画が見つかると、「恥ずかしいもの」「変態的な趣味を持っていた」と解釈した家族が捨ててしまうということ。捨てるくらいなら、私が買い取るのに。

※「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」