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《口に出し続けるのが重要》テニスと仏教界の2大レジェンドが語った「最強」メンタルの整え方

《口に出し続けるのが重要》テニスと仏教界の2大レジェンドが語った「最強」メンタルの整え方

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元プロ車いすテニス選手の国枝慎吾さん、慈眼寺住職・大阿闍梨の塩沼亮潤さんによる対談「「最強」メンタルの整え方」を一部転載します(文藝春秋2023年8月号より)。

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ナンバーワンに「なりたい」ではなく

 今年1月、世界ランキング1位ながら引退を表明した車いすテニスプレーヤー・国枝慎吾氏。グランドスラム歴代最多通算50回優勝を誇り、昨年にはウィンブルドンを制し、4大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」の偉業を達成した。

 かたや塩沼亮潤氏は1999年、1日48キロを計1000日間歩く最難関の荒行「大峯千日回峰行」を満行した、史上2人目の大阿闍梨。2000年には断食・断水・不眠・不臥を9日間続ける「四無行」も満行した。

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国枝慎吾氏(左)と塩沼亮潤氏 ©文藝春秋

 国枝 お会いするのは初めてですよね。この3月に国民栄誉賞を受賞した際、伊達公子さんがお祝いのパーティを開いてくださり、そこで塩沼さん直筆の色紙をサプライズでいただいて。「クレイジージャーニー」などのテレビ番組や著書で存じ上げていたので感激しました。その節はありがとうございました。

 塩沼 こちらこそ素敵な機会をいただき、ありがとうございました。お会いできてとても嬉しいです。

 国枝 色紙には僕の座右の銘でもある「俺は最強だ」という言葉を書いていただきました。

 塩沼 色紙を書いているうちに、世界で戦ってこられた国枝さんのエネルギーが伝わってくるようでした。まるで開眼するようでしたね。何度も何度も「俺は最強だ」と書いていたので、事情を知らない職員は「大阿闍梨、なにか心境の変化があったんですか……?」と不審がっていました(笑)。国枝さんはなぜこの言葉を座右の銘とされているのですか。

 国枝 僕の中で「俺は最強だ」という言葉が生まれたのは、もう17年前のことです。当時、ずっと世界ランキングの10位台で、なかなか10位の壁を突破できずにいた。そんな時に、世界的に有名なメンタルトレーナー、アン・クインさんに指導を受けました。

 クインさんに「ナンバーワンになれるでしょうか」と尋ねたんです。クインさんが「あなたはどうしたいの」と聞き返すので、当然「ナンバーワンになりたい」と答えました。すると彼女は「『なりたい』ではなく、『俺が世界のナンバーワンなんだ』と断言するトレーニングが必要だ」と言うんです。ポジティブな言葉を口にすることで潜在意識から行動や発想を変えようという手法で、アファーメーションと呼ばれるメンタルトレーニングのひとつです。そこで考えついたのが、「俺は最強だ」というフレーズでした。