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「7年間ずっと満席のまま閉店」伝説のパクチー専門店主が、千葉の田舎に出した「パクチー銀行」の途方もない夢

source : 提携メディア

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料理も、パクチーだけのかき揚げ「パク天」、注文時に舌を噛みそうな「パクパクピッグパクポーク ビッグパクパクパクポーク」(豚バラやわらか煮込み~中華風ソースのパクチーのせ)、「パク塩アイス」など、隣席の人が注文するだけで気になってしまうネーミングと内容にした。

忘れられない女性客

店を開いてからも、どんどん新しいアイデアを取り入れた。ビールが1リットル入る「メガジョッキ」はあまりに目立つため、立派なコミュニケーションツールになった。満席時に来店した人のために、店の一番目立つ場所に用意した立ち飲みスペースでも、お客さん同士が自然と話をするようになった。見知らぬ他人との楽しい会話を求めて予約席で1次会、立ち飲みスペースで2次会をする人もいた。

パクチーのパクにかけて毎晩8時9分には、佐谷さんの呼びかけで、全員で乾杯した。そのコール「ビラビラビーラ! パクパクパク!」は、スウェーデンの乾杯の際に行われる音頭をパクったもので、客席は大いに盛り上がった。

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さらに営業時間中、佐谷さんはビールを持って客席をまわり、乾杯しながら「元気? 仕事なにしてるの?」と話しかけた。そこから隣席にも会話を振り、お客さん同士をつなげていった。

「面白くない人っていないんですよね。ただ、それを表現する場所がない。だから、パクチーハウスはとにかく自由な雰囲気にして、ここなら自分を出していいんだという安心感のなかで、楽しんでもらいたかった」

佐谷さんには、忘れられないお客さんがいる。ある日、ひとりの女性客にお礼を言われた。

「転職しました。パクチーハウスのおかげです」

その女性の話を聞いて、驚いた。初めて来店した時、満席で立ち飲みスペースに案内されたという。すると、先に立ち飲みスペースで飲んでいた4人組の男たちが大声で仕事の話をしていて、最初は「うるさいな」と迷惑に感じていたそうだ。そのうちに「どう思います?」と話を振ってくるようになり、仕方なく応じながらも、「うざい」と思っていた。ところが、男たちの「仕事がいかに楽しいか」という話が頭から離れなかった。