浮気調査、ストーカー被害の証拠集め、失踪者捜索……探偵の仕事は多岐に渡るが、時に“人間の本性”を暴きだすような依頼も多い。
ここでは、120を超える支社を持つ総合探偵社ガルエージェンシーに所属する探偵が、調査を進める上で実際に体験した恐怖譚を集めた『探偵怪談』(彩図社)より「ラブホで首を切る男」を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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ラブホテルに乗り込む
「ラブホテルに乗り込ませてください!」
浮気調査で依頼者様がそうなるのは、よくあるパターンである。
調査報告書を受け取るよりも、リアルタイムに激情の赴くまま一気にケリを付けたいという心理が働くのだろう。
依頼者様のご臨場は、実は私たち探偵にとってもメリットがある。
調査で大変なのは、対象者がお泊りをした際の夜を徹した張り込み。依頼者様が現場にくれば、調査は確実に完了するからだ。
今回の依頼人は40代のご主人。妻(30代)と浮気相手の男性(30代)がラブホテルに滞在していると中間報告をする。話している限りでは穏やかな性格である。
中間報告を受けた依頼者様は「もう駄目だ! 私もラブホテルに行って話をしたいです!」と語気を荒く要望した。なにか問題が起きてはまずい。責任者である私もラブホテルの現場に同行することになった。
依頼者様の車だと奥さんにバレる可能性があるため、私の車を使用する。
依頼者は妻のところに走り口論に
張り込みをしている現場の調査員に連絡をして、依頼者と私が同行することを伝えた。
「絶対に手をあげないように。まずは冷静に話をしましょう」
妻の浮気相手とはいえ、暴力を振るえば立派な不法行為になってしまう。ホテルに向かう車の中で、何度も注意事項を確認する。
ラッキーなことに到着後、30分もしないうちに妻と浮気相手がホテルから外に出てきた。依頼者様はドアを開けて後部座席から飛び出すと、妻のところに走っていく。そして妻との口論が始まった。
(なんだよ、打ち合わせと違うじゃないか! 喧嘩になるのかよ……)
私は内心、苦虫を噛み潰すような思いをしながら、すぐに依頼者様のもとへ駆け寄る。