ラブホテル突撃でよくある会話からの「驚きの展開」
依頼者様、妻、浮気相手男性、そして私。何かあったときのための用心を兼ねて、当社の調査員がその様子を潜みながらカメラで撮影をしている。
依頼者様と妻は一気にヒートアップし声高になっている。
「なんであんたがここにいるのよ!」と依頼者様に言い放つ妻。
「おまえこそなんでホテルにいるんだ!」と依頼者様。
「あんた誰よ!」と私に向かって妻。
「私は探偵です。ご主人さんに同行しています」
「なんで探偵なんか雇ったのよ!」と妻。
「お前が浮気しているからだ!」と依頼者様。
「お前は誰なんだ?」と浮気相手に向かって言う依頼者様。
「誰だっていいじゃない!」と口をはさむ妻。
「誰だって良くはないだろう。同じ職場の人か?」と依頼者様。
「……(無言)」
「そうなんだな! なんか見たことあるぞ」と依頼者様。
ラブホテル突撃でよくある会話が続く。
しかし、長年探偵をした私でも、次の行動は予想できなかった。
なんだかんだと3人でもめて声高になっていたが、次の瞬間、浮気相手の男性が大きな声で笑い出したのだ。
「はははっ! これで私に慰謝料は請求できなくなるでしょう!」
「??」
「??」
その場にいる全員が困惑している。
最初、私は彼が言っていること、やっていることが理解できなかった。
浮気相手の男性は、カッターのような刃物を持っており、笑いながら出し抜けにそれで自分の首をスパッと切ったのである。
飛び散る鮮血…浮気相手の行動の意図は?
彼の首から鮮血が飛んできたので、私はスーツが汚れないようにとっさに避ける。
「キャー!! 何をしたの!! 助けて!!」と妻が叫ぶ。
まずは人命優先だと、私は冷静に119番と110番に通報をした。
救急車がくるまで、男性を地面に横たえて様子を見た。
奥さんは相変わらずあらん限りの大声で叫んでいる。それはそうだろう。さっきまで情事を行っていた相手が首から血を流して倒れているのだから。ここで取り乱さないほうがおかしい。
ただ私は探偵。数々の修羅場を経験してきているので、少々のことでは取り乱さない。
冷静に男性の傷を確認すると、それほど深くはない。
(この男、自殺する気はなかったな? 慰謝料を払いたくないのはわかるが、そのために自分の首を切るなんて、妻や子どもがいるワケありかな……?)
などと考えながら、横たわっている男性を観察する。