さらに2台の車両がマンション前で停車して…
対象者と若い男性は、短く会話をしながら何かを待っている様子だった。と、その時、2台の車両がマンション前で停車した。各車両から2名ずつ、合計4名の若い男性が降りてきた。4名の男性は対象者のもとに集まるとなにやら指示を受けている。
まさか……、6名もの男が嫌がらせ行為に関わっているのか。驚きながらも犯行の証拠を逃すまいとカメラを構えた。
23時半頃、対象者が若い男性とマンション駐車場に進入する状況が確認された。
対象者は駐車場内で周囲を確認した後、一度駐車場から出ていく。それからも他の若い男性が駐車場に出入りするが、直接、依頼者の車両に触れることはなかった。
午前1時頃、対象者が依頼者の車両の裏側に回り込んだ。地面に背中を着けて寝転がり、何らかの作業を行う様子が確認された。他の若い男性たちは駐車場内に散らばり周囲を警戒していた。対象者の手際は良く、5分も経たないうちに作業を終了させた。
その後、対象者と若い男性たちは駐車場を出て、各々の車両に乗り込んだ。そうして1時間近くその場で待機した後、午前2時過ぎにようやく対象者が乗車した車両が移動、他の車両もそれに続いてマンションを後にした。
当方は、対象者が引き返してくる可能性も考え、30分張り込みを継続した。対象者が戻ってくる様子がなかったことから、マンション駐車場内に設置した隠しカメラを回収し、対象者が依頼者の車両に何をしたのかを確かめた。
まるでゲームをするかのよう…6人の男たちの笑顔
隠していたカメラと自分で撮影した映像には、犯行時の対象者の姿がはっきりと映っていた。対象者たちは、まるで何かのゲームに興じるかのように終始笑顔で、楽し気に振舞っている。
車両の裏側に回り込み、対象者と同じ様に仰向けに寝転がると、ナンバープレートの裏側にスマートフォンがガムテープで固定されているのを発見した。対象者はスマートフォンのGPS機能を利用して、依頼者の現在位置を特定しようとしていたようだ。
この犯行が行われた翌日、当方は依頼者に調査結果を報告。依頼者はそのまま管轄の警察署に赴き、報告書を提出した。数日後、依頼者から連絡があり、対象者を含めた6名が逮捕されたことを知らされた。
あれから5年が経つが、今でもあの対象者たちの姿が忘れられない。笑顔を浮かべながら犯罪行為に及ぶその姿には、罪の意識は微塵も感じられなかった。一般の常識や道徳では測ることができない人間もいる。そのことを強く思い知らされた案件だった。
と同時に、背中に冷たいものも感じた。
もし、あのとき撮影していることが彼らにバレていたら……。
当方は、いったいどうなっていたのだろうか。