2014年の春、離れて暮らす母が余命1年のすい臓がんだとわかりました。通院と治療が始まり、母は抗がん剤の副作用や痛みに気分が浮き沈みして、イライラは最高潮、心はガチガチに閉じてしまいます。決して仲のいい母娘ではなかった私たち。母が病気になる前に、こんなことを準備できていたらもっとよかったのかな、と今だからこそ思う「親が病気になる前に備えておきたいこと」をお伝えします。

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『ありがとうって言えたなら』(瀧波ユカリ 著)
『ありがとうって言えたなら』(瀧波ユカリ 著)

1、親子で話をすることに慣れる

 私の母は、毒舌エネルギッシュなタイプで「死神すら尻尾をまいて逃げるような」押しの強い人でした。人の意見をすんなり聞き入れるタイプではサラサラなくって、娘の私にとってはいわば「打つ手のない親」(笑)。だから、看護も看取りも想像通りにいかないことばかりだったのですが、今、振り返ってみて、親が病気になった時にまず必要なのは「親子で話をすることに慣れる」ことでした。

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「そんなの当たり前でしょ」って言えるような普段から何でも話せる親子ならいいんです。でも、私は母とあんまり仲のいい親子ではなかったんですね。母のがんがわかった時は、まさに母と私の折り合いが悪いタイミングで、母のことはとても心配だけど、心から打ち解けて本音で話したことが今までなかったから、母に電話したくてもなんて言っていいのかわからなくて。「母の病気」と「母との関係」というふたつの問題を同時に抱えることになってしまいました。親との接し方を悩んで距離を置いていたのに、病気だからこそ相談しないといけない治療のこと、お金のこと、実家のことなど、センシティブな事柄は山積み。普段から親と話し慣れていない状態で闘病が始まって、いきなり母と距離を詰めなくてはいけなくなった。こういう関係でシビアな話をするのは、話を切り出すこちらも、病気で不安になっている親も、共に、より負担を感じてしまうものだなあと思いました。

出典:『ありがとうって言えたなら』(瀧波ユカリ 著)

 なので、親との関係はそれほど悪くないけれど、離れて暮らしていて普段から親と会話がない、いざ話してみても盛り上がらない、ついついケンカになってしまう、というような方におすすめしたいのが、元気なうちに親と一緒に出かけることです。買い物に行くでも、映画を観に行くでも、親と何かを一緒にしてみる。共通の話題を持っていると、病気に関してのシビアな話で行き詰った時にも、その場の空気を変える会話の糸口になります。なんでも話せる、とまではいかなくったって、そこそこの会話が成立する間柄でいい。話し慣れていないと、一緒にいられる残りの時間が少なくなってきても、大切なことは意外と伝えられないし、伝わらないものなんですよ。とはいえ、これはそこそこ会話が成立するタイプの親御さんじゃないと厳しいですね。「ちょっとがんばればできそう!」と思える方のみトライしてください(笑)。

出典:『ありがとうって言えたなら』(瀧波ユカリ 著)