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「修業」の意味は自分で定義する

――人間国宝でありながら、上から指導することもなさそうですね。

伯山 僕の弟子は3人で、師匠にとっては孫弟子に当たります。孫たちにもなにか言葉をいただきたいと思って、対談の最後に質問したんですよ。

――あ、それもいい言葉でしたね。

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伯山 師匠から「修業時代が大事なのはもちろんですが、ただ人について、言われるがままに修業するだけではなくて、自分の頭で言われたことの意味を考える修業も必要なんです。そういうふうに伯山は指導するべきだし、彼らもそういう自覚のもとで取り組んでくれると、実りある修業になります」という言葉を頂戴しました。つまり、修業というものは自分で定義するということなんです。

 

――ご自身の前座時代を振り返るとどうでしたか?

伯山 師匠方によって異なるお茶の熱さ加減だとか、着物はこう畳むんだよと教わって、でも上手く出来ないから怒られて大変だなと最初の頃は思ってました。怒られるのも嫌だから、なんとか避けようと。それに僕は太鼓を叩くのが下手で、じゃあ、誰か代わりに叩いてもらおうとか、嫌なことからは逃げてたんです。

 でも、怒られないためだけの修業は修業じゃないんですよね。「この師匠が快適に過ごせるには、どうしたらいいんだろう?」と考えるのが修業なんだと、その後わかりました。

――ご自身は逃げていたこともあるんですね。

伯山 弟子を持ってみて気づいたんですが、僕は自分のことを棚に上げるのが天才的に上手いんです。前座のころ、出来なかったことなんかすっかり忘れて、いまは弟子にきっちり指導してます(笑)。

 でも僕が逃げていたのには理由があるんです。「とにかく二ツ目になってからが勝負だ。前座仕事はほどほどで、講談だけ一生懸命稽古しよう」と思ってました。つまり、僕は「修業とはいかに逃げることか」と定義していたんです(笑)。今では周囲の人の優しさが分かります。本当に申し訳なかったです。

 

師匠からの学び

――松鯉先生がいたからこそ伯山先生が生まれたのかもしれませんね。松鯉先生のスタンスは、最先端のヒューマンスキルだと思います。

伯山 師匠も、若い時は弟子に対してはかなり怖かったらしいんですけどね。僕が入門したころ師匠は60代で、読み物にしても一つひとつ丁寧に教えてくださいました。「修業とは矛盾に耐えること」と談志師匠はおっしゃってましたけど、ウチの師匠はそれを突き抜けて「修業とは自分で定義するもの」というところまで行き着いた。そんな師匠の言葉は高僧のありがたいお言葉にも聞こえるし、企業の研修でも通用しそうな今の時代を生き抜く学びがあるような気もします。

――常々、「師匠選びも実力のうち」とおっしゃってましたけど、本当にそうですね。

伯山 大丈夫かな、ウチの弟子たち(笑)。

 撮影/細田忠(文藝春秋)

神田伯山(かんだはくざん)●1983年東京生れ。講談師。日本講談協会、落語芸術協会所属。2007年、三代目神田松鯉に入門。12年、二ツ目昇進。20年2月11日、真打昇進と同時に六代目神田伯山を襲名。著書に『絶滅危惧職、講談師を生きる』(聞き手・杉江松恋/新潮社)『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)など。ラジオ番組「問わず語りの神田伯山」(TBSラジオ)も人気。20年、YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」が第57回ギャラクシー賞テレビ部門フロンティア賞受賞。

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