講談師としてますます活動の幅を広げている神田伯山。この度、講談ゆかりの地を訪ね、講談の魅力を再発見する「講談放浪記」(講談社)を上梓した。巻末には師匠・神田松鯉との師弟対談も収録。そんな伯山が本書の読みどころ、そして現代にも通じる「修業論」や「師匠・弟子論」を語った。

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講談は宝の山

――「講談放浪記」、伯山先生の「いま」が浮かび上がってくる本でしたね。

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伯山 ありがとうございます。僕はずっと「講談は宝の山」と話してきたんですが、それは膨大な読み物が眠っているだけじゃなく、話に登場する実在の場所をめぐっていく「聖地巡礼」的な楽しみ方も含めて、宝の山だと思ってたんです。YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」では動画で聖地巡礼の様子も見られます。

――第一部は「赤穂義士伝」や「四谷怪談」ゆかりの地を訪ねる。そして第二部は寄席や歌舞伎座を訪ねますが、単に放浪してるだけではなく、物語に対しての思い、スタンスを語っているところがミソだと思いました。

 

伯山 ものごとに対する自分の考え方が書かれているところもおもしろいかなと。たとえば、講談には相撲ネタが結構あるんですが、両国国技館を訪れた時に「なぜ土俵は女人禁制なのか?」と考える。僕はこの話、「ジェンダー」の問題だけではなく「敬意」の問題と捉えてるんです。その文脈で考えていくと……そういうことが本には書かれています。

弟子には「ひと月に1席は覚えなさい」

――その意味では現代のコンプライアンスとのせめぎ合いを考えざるを得ない「任侠物」についてのスタンスも面白かったですし、なにより、師匠と弟子の関係が全編を通して浮かび上がっているのが興味深いです。

伯山 巻末で、師匠の神田松鯉と対談もさせていただきました。

 

――ご自身も、いまは梅之丞、青之丞、若之丞と3人のお弟子さんがいますが、どんな育成方針を立てているんですか。

伯山 いま、講談でも落語でも、売れるタイミングが前倒しになっています。二ツ目(※一般的に4年の前座修業を終えると二ツ目に昇進する。高座でも羽織が許される)になって、1、2年目で結果を出せないと、ずっと結果が出せないままに終わってしまう可能性があるんです。それを踏まえて、前座のうちにネタを50席は覚えたうえで、二ツ目になったらすぐ勝負した方がいいと考えてます。だから、ひと月に1席は覚えなさいと。

 でも同時に、売れることがすべてではなくて、良い講談師になるためにという意味も強いです。売れる方が良いけど、それがすべてじゃないですし。売れなくても業界に何らかの形で貢献出来る人になって欲しいですね。ちゃんと努力していて良い講談師になっているなぁと評価する師匠になりたいです。

――そういえば、最近は伯山先生もネタ下ろしが多くなってきましたね。

伯山 弟子に対して言いっ放しではなく、自分も新しいネタを同じペースで覚えて、もがいている姿を背中で見せるしかないと思っていて、なんだか若い体育教師みたいな感じですかね(笑)。僕のイメージとしては、進学校が高校2年で高校3年のカリキュラムをすべて終わらせてるみたいな、そんな早め、早めに手を打っていく感じです。前座から二ツ目にかけてどういう読み物が大事になってくるかなど、自分の経験を教えています。