歌舞伎と講談がついに手を組むことになった――。歌舞伎俳優の尾上松緑(47)が東京・歌舞伎座の10月公演「芸術祭十月大歌舞伎」で、講談の名作「荒川十太夫」を題材にした新作歌舞伎に主演する。
また、9月28日には歌舞伎座で、神田松鯉(79)と弟子の神田伯山(39)による「特撰講談会」を開催。松鯉はこの日、80歳の誕生日、そして「講談の公演を歌舞伎座ですることが夢」と語っていた伯山にとって、念願の舞台となる。
講談ファンを公言する松緑と、学生時代、歌舞伎座に通っていたという伯山に、今回の公演への思いと、歌舞伎と講談、それぞれの魅力や共通点を語ってもらった。
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9月は歌舞伎座で講談会、10月は講談が題材の歌舞伎
――9月から10月にかけて、歌舞伎と講談のコラボを見ることが出来ます。まず、9月28日に歌舞伎座で「神田松鯉・神田伯山 歌舞伎座特撰講談会」が開かれます。
伯山 師匠である人間国宝の松鯉が「荒川十太夫」、そして私が「安兵衛駆け付け」と「安兵衛婿入り」を読ませていただきます。
――そして10月からは、尾上松緑さんが新作として「荒川十太夫」を上演されるという、ワクワクする企画が続きます。
伯山 本当にありがたいことです。ちょうど9月28日は師匠の80歳の誕生日にあたりまして、無事に当日を迎えたいと、今はそれだけを願っています。
松緑 それは素晴らしい誕生日になりそうじゃないですか。
――松緑さんは以前から伯山先生の独演会に足を運んでらっしゃいましたが、「荒川十太夫」を歌舞伎にしようと思ったのはいつのことですか。
松緑「荒川十太夫」にいちばん最初に遭遇した時のことは未だに忘れられません。伯山先生が松之丞時代に出されたCDを楽屋で化粧をしながら聞いていたんです。それがもう、聞き始めたら一発で瞼の裏に道具から何から、「あっ、これは芝居に出来る」というのが目に浮かんだんです。
講談の名作「荒川十太夫」を新作歌舞伎に
「荒川十太夫」とは講談の人間国宝である松鯉が得意とする名作。赤穂義士の外伝物で、堀部安兵衛の切腹の際に介錯をつとめた下級武士の苦悩と覚悟を描く。
〈あらすじ〉
伊予松山藩の目付役、杉田五左衛門は赤穂義士の七回忌に墓参へと向かった。松山藩は吉良邸に討ち入った赤穂の義士10名が預かりとなり、切腹までの時を過ごした場所で、杉田も義士たちへの思いが深かった。
ところが墓参の途中、杉田は自分の目を疑う。御徒役の荒川十太夫が、はるかに上役である物頭役の恰好をして墓参をしているではないか!
身分を偽るのは死罪を申し渡されても仕方の無い程のご法度。しかし、荒川は堀部安兵衛の介錯人を務めるなど文武に秀でた武士。なぜ、荒川は身分を偽ってまで墓参をするのか。藩主が直々に詮議にあたることになり、その場に引き出された荒川は――。