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「この講談ならば、歌舞伎でもお客さまに喜んでいただける」

松緑「荒川十太夫」は非常に分かりやすく、最後まで悪人が出てこない物語です。これは落語を題材にとった歌舞伎、「文七元結」にも共通していることなんですが、最後まで見ると気持ちが晴れやかになるんですね。この講談ならば、歌舞伎でもお客さまに喜んでいただけるのではないかと思いまして。

 そこでCDを松竹の製作部の方々にも聞いてもらったんですが、「これはいいものになりそうですね」ということで、いま演出家の西森英行さんのご協力をいただいて、舞台を作っているところです。

――伯山先生は、松之丞時代に「講談へのアクセスルートを増やしたいんですよ」ということで講談の入門書やCDを出されていましたが、こうした形で実を結びましたね。

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伯山 数年前は、講談は落語に比べて参考図書や音源が圧倒的に少なかったんですよ。でも今は講談師が主人公になったマンガ(「ひらばのひと」)もありますし、今回は講談が歌舞伎になるわけです。これは昔をさかのぼるとよくあったことですが、近年は珍しいわけで。ですから、僕はラジオで人の悪口を言っているだけじゃないんです(笑)。まぁ本当は、全部師匠の尽力なんですけどね。

 

――そういえば、松緑さんは歌舞伎座の楽屋でも伯山先生のCDをかけてらっしゃると聞きました。

松緑 今日もずっとかけておりました(笑)。伯山先生の講談を聴いていると、モチベーションが上がってくるんですよ。

伯山 うわ、こんなに嬉しいことはないです。恐縮です。

松緑 僕はわりと口が重い方なのですが、ここ数年、「松緑の台詞の言い方が変わってきた」と言われておりまして。自分ではまったく意識していなかったんですが、CDや寄席で話芸に接することで、講談のリズム、うねりのようなものが耳に残って、それが影響しているのかもしれません。

伯山が解いた松緑の“呪縛”!?

伯山 松緑さんに寄席演芸に触れていただけるのはうれしいなあ。

松緑 私の祖父である二代目松緑は先代の柳家小さん師匠と仲良くさせていただいていましたし、父の辰之助は古今亭志ん朝師匠と交流がありました。僕も20代の頃には結構、落語に触れていたんですよ。

伯山 そうだったんですか。

松緑 ところが、とある落語家の方とケンカしたことがありまして……。

伯山 ええ! そんなこと初めて聞きましたよ。

松緑 そうしたことがあって、演芸から遠ざかっていたところ、伯山先生がその呪縛を解いてくれました。

伯山 いやあ、そうなんですか。それにしても、その落語家の方が誰かが気になるなあ。まだ、生きてらっしゃる方ですか。

松緑 それは申し上げられません(笑)。

伯山 ああ、気になる。でも文春オンラインだから、松緑さん言わなくていいです(笑)。