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穏やかな日常のリズムを守る

 私たちが大場家を訪れたのもこの午後の「自由時間」だったが、トッティは20歳と思えないほど活発に部屋の中を行き来し、ときに私の犬のレタラの匂いを嗅いだりした(大先輩の“挨拶”にレタラは直立不動で固まっていた)後、大場さんに抱っこされて満足げな表情を浮かべた。

「毎日、トッティが寝て起きた後は、私こうやって(両脚を揉みほぐすように)マッサージをしてるんです。人間だって寝起きが一番筋肉が固まっているでしょ」

 夕方の17時ごろになると、決まった“儀式”がある。

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「布団がしまってある押し入れの戸をトッティがガタガタ叩くんです。“早く布団敷いて”というアピールですね。あんまりうるさいんで、私もトッティを抱いて17時半ぐらいに布団に入っちゃいます」

 

 そしてトッティは朝3時に目を覚ます――この穏やかなリズムの日常を守っていることが超長寿の秘訣なのだろう。

 私には大場さんに訊きたいことがあった。というのもペットと暮らしている人にとって、やがてお別れの時間がやってくるということは、頭ではわかっていても、できるだけぎりぎりまで遠ざけておきたい事実に他ならない。ペットが高齢になって、いつか来る『その日』が現実味を帯びてきてもなお、いや、だからこそ余計に考えたくないものだ。

 ところが大場さんは自らペットロスについて書いた私の本を手にとった。

大場さんの驚くべき行動

――なぜこの本を読もうと思ったんですか?

「なんか縁というか……引っぱられましたね。トッティだけじゃなくて、私だっていつどうなるか分かりませんよね。いつか来る「その日」が明日かもしれない。言葉ではうまく説明できないんですけど、これから自分が向かおうとしている不安のあるものに対しての“答え”があるんじゃないかと。とにかくこの本を読んでみようと思ったんです」

 さらに大場さんは驚くべきことを口にした。

「実はね、今年の4月に大工さんに頼んでトッティのお棺を作ってもらったんです」

 

 件の本の取材では私もずいぶんと多くのペットの飼い主たちに話を聞いたが、生前にペットのお棺を作ったという人に会ったのは初めてだ。

――なぜお棺を作ろうと思ったんですか?

「ずっと2人で暮らしてきましたからね。今、何が大事かと言ったら、伊藤さんの本にも書かれてましたけど、トッティに『感謝』を伝えることだと思ったんです。どうしたらそれが伝わるかな、と思って。以前、知り合いのペットが亡くなった時、真新しい段ボールに入れていたので、『こうすればいいのか』とも思ったんですけど、私の場合、20年分の感謝ですから。それで大工さんに薄い2ミリぐらいの板でいいから、とお願いして、作ってもらったんです」