「最寄り駅」があまりに“非日常な駅”になったら…?
「ですが、それだけではないんです。もちろん、今回のリニューアルはハリー・ポッターからはじまっているので、観光拠点整備みたいな感じで駅の時間を楽しんでいただく、非日常の空間にしたい。
ですが、一歩下がってみると、駅というのは公共の場なんですよね。豊島園駅は日常使いのお客さまもたくさんいらっしゃいます。それに、としまえんという遊園地があったおかげで、地元愛が強い方も多いんです。そういう方からすると、駅の中があまりにも非日常の世界になっていると疲れてしまう。
ですから、非日常の世界を楽しみに来られるお客さまと、日常使いされているお客さまと、双方がこの場所に居て、いいなと思える空間作り。そこにいちばんこだわりました」(五味さん)
そう、いくらテーマパークの最寄り駅といっても、豊島園駅の周辺は住宅地でもある。普段から通勤通学や買物で使っている人も少なくない。そうした人たちにも喜んでもらえるリニューアル。日常と非日常のバランスが重要というわけだ。
「これとしまえんのベンチだよね? 私、働いていたのよ」
なるほどと思う。が、言葉で言うほど簡単でもない、そこでカギになったのが、豊島園駅はそもそもとしまえんの最寄り駅、という原点であった。開園から90年以上の歴史を持つ、地域密着の遊園地。地元の人もそれ以外の人も、多くの人から愛され親しまれてきた遊園地。その歴史を、豊島園駅にも落とし込んだのだ。
「汽車やホーム上のベンチ、電話ボックスはすべてとしまえんの中で使われていたものです。補修はしましたが、デザイン等基本的にはとしまえんのときのママ。ベンチには「TOSHIMAEN」と刻まれていますが、それもそのまま残しています。長らく地元の方に愛されてきたとしまえんを、リニューアルの中に落とし込む。これは特にこだわった点でもありますね」(五味さん)
ハリー・ポッター目当てでやってきた人は、駅に降り立てばもう魔法の世界に入り込んだような気分になれる。それでいて、昔から利用している地元の人たちは、自分たちが愛して止まないとしまえんのベンチや汽車、電話ボックスがホームの上で息づいている。ベンチに腰掛けて、「としまえんのベンチだよね」と気がつく人もいるという。
「おふたり、出会いました。ベンチに座って、『これとしまえんのベンチよね? 私、働いていたのよ』っておっしゃって。本当に、としまえんが地元に愛されていたんだなあと感じました」(五味さん)