3月1日に約1か月間に及ぶ宮崎春季キャンプを終えて、ホークスは本拠地の福岡に戻った。工藤公康監督は総括の中で「MVP」を問われると、少し考えて、楽天から新加入の西田哲朗と正捕手獲りへ期待の大きい侍ジャパン戦士の甲斐拓也の2人の名前を挙げた。

 筆者もチームと同じく29泊30日のキャンプ取材を、今年もまた何とか“完走”した。というわけで、勝手に“MVP”を選出させてもらおう。

 それはずばり、2年目の19歳、長谷川宙輝(ひろき)だ!

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 背番号134のまだ育成選手のサウスポー。2月24日の紅白戦では1イニング6失点の大炎上をやらかした。だけど、それも含めて、長谷川宙が推しメンなのだ!

16年に育成ドラフト2位で入団した長谷川宙輝

驚きのスピードで成長を遂げたルーキーイヤー

 東京都の聖徳学園高校から育成ドラフト2位で入団。正直、彼のことを全く知らなかった。甲子園経験はなく西東京大会3回戦が最高成績。高校時代の最速は144キロとの触れ込みだった。

 良い投手であることは間違いないが、プロであれば特別な存在ではなかった。しかし昨年、高卒育成ルーキーは驚きのスピードで成長を遂げた。「高校時代はそんなにウエイトをしたことがありませんでした」。しっかりとした育成プログラムが確立しているホークスで鍛え上げると、1年目のうちに体が変わり、球も変わった。

「最速は149キロ。それよりも平均球速が10キロ以上速くなって、140キロ台中盤をコンスタントに出せるようになりました。自分でもビックリしました」

 シーズンが終わると、秋には強化指定選手に。そしてこの春のキャンプはB組スタートだったが、第3クールからA組に昇格して3桁背番号ながら“開幕一軍”を争う立ち位置にいる。

 そんな初々しい左腕に、温かな視線を向ける一人の男がいた。

 担当スカウトの山本省吾である。星稜高校から慶応大学を経てドラフト1位で近鉄バファローズ入りした左腕だった。高校2年生時には、夏の甲子園で準優勝を果たした実績がある。その男が、「初見で驚いた。粗削りでしたけど、本当にいいボールを投げた時は、威力もキレも抜群。高校2年生当時の僕と比べても、彼の方が断然上だと思いました」と言うほど、この逸材に惚れ込んでいる。

 一方で懸念があるとすれば、「経験不足」だと言った。

「初めて彼を見たのはどこかの高校のグラウンド。東京は学校数が多いから、ブロック大会は球場じゃなくて高校で行うことが多い。前の試合で『1試合20奪三振』という小さな新聞記事をたまたま見つけて観に行ったんです。彼は大きな舞台や大観衆の中で投げたことがない。このキャンプのスタンドの観衆ですら、初めての経験だと思います。そんな中で緊張したり、テンパったりした時の経験はあまりないですからね」

 その不安が的中したのが2月24日の紅白戦だった。いきなりフォアボール。その次の牽制球が悪送球となると、もう頭が真っ白になった。さらに連続四球で無死満塁となり、打席に迎えるのは柳田悠岐。さあ、どうなると思って見ていたら、初球を投げる前にまさかのボークをやらかした。ため息が漏れるスタンド。柳田に2点タイムリーを浴び、続くグラシアルには絵に描いたような2ランホームラン。その後も痛打されてもう1点を取られての計6失点だった。

 マウンドを降りる際の落ち込み様は、気の毒で仕方なかった。

 期待された若手がこんな出来事をきっかけにズルズル後退していったのを過去に何人も見てきた。