22歳、プロ4年目で脳腫瘍の宣告。18時間に及ぶ大手術、闘病とリハビリ、回復しない視力、24歳での引退試合……。絶望と苦しみの日々を乗り越え、現役最終試合ではファンも驚く好返球を見せた元阪神・横田慎太郎氏が2023年7月18日に28歳の若さで逝去した。

 ここでは、同氏の著書『奇跡のバックホーム』(幻冬舎)の一部を抜粋し、ファンであれば誰もが忘れられない、引退試合での“奇跡のバックホーム”の舞台裏について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

阪神でプレーした横田慎太郎氏 ©文藝春秋

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プロ6年間のベストプレー

「センターに入れ!」

 1096日ぶりの公式戦。タイガースが2対1でリードしていた8回表、ツーアウト二塁の場面で平田監督に命じられ、僕は緊張して守備位置に向かいました。

「よし、来い!」

 そうしたら初球です。大きなフライが本当に飛んできた。

「うそだろ……」

「代わったところに打球は飛ぶ」とはよく言われますが、まさかいきなり来るとは思っていなかったので、ちょっと焦りました。

 打った瞬間、どんな打球かは感覚である程度わかりましたが、ボールは見えていませんでした。高く上がったボールは見えにくいのです。ただ、これは見えていても届かない打球でした。ボールは僕を越え、センターオーバーの二塁打。同点になりました。

 代走が出て、バッターは6番の塚田さん。

 その2球目、塚田さんが打ち返した打球は、僕の前にライナーとなって飛んできました。よりによって、いちばん見えにくい打球が飛んできたのです。

 正直、一瞬思いました。

「これが最後のプレーかよ……」

 それでも、気がつくと僕は足を前に踏み出していました。そうしてボールをキャッチすると、次の瞬間、大きく右足を踏み出し、ダイレクトでキャッチャーに送球しました。

 ボールはノーバウンドでキャッチャーのミットに吸い込まれました。タッチアウト。

 鳥肌が立ちました。プロ生活6年目の最後に、生涯ベストプレーを見せることができたのです。

 おこがましさを承知で言えば、このバックホームがタイガースを奮い立たせたのかもしれません。同点となった試合は8回裏、先頭打者の江越さんのツーベースを皮切りに、板山さんがレフト前に運んでチャンスを拡大。タイガースが2点を追加して4対2となりました。そして、9回のソフトバンクの攻撃を無失点で抑え、タイガースが勝利しました。

 僕も8回に引き続き守備につきましたが、幸か不幸か、今度は打球は飛んできませんでした。

 こうして僕の最後の試合は終わりました。