神様が背中を押してくれた
そして、あのバックホームが神様の思し召しだったのではないかという最後の理由――それは、病気をしてからの僕は、あのような打球に対して前に出ることはなかったということです。
繰り返しますが、あの打球はいちばん見えにくい打球でした。ボールが二重に見えるうえ、距離感がつかめない。どこに跳ねてくるのか、どのように向かってくるのか、よくわからないのです。だから、いつもなら一歩後ろに下がって捕ろうとしたはず。そして、後ろに下がっていたらバウンドが合わず、はじいたり、後逸したりしていたことでしょう。
それが、あのときにかぎっては不思議と身体が前に出た。無意識のうちにそうしていた。自分の意思ではなく、何かが僕の背中を押してくれたのです。そうしてグローブを差し出したらボールが入ってきたという感じでした。
しかも、バックホームの送球はノーバウンドでした。それまでノーバウンドでキャッチャーに返球できたことは一度もありません。練習でもなかったのです。
実は、投げたボールもはっきり見えていませんでした。ファンのみなさんから歓声があがり、内野手がガッツポーズしたのを見て、はじめてタッチアウトなのだと理解しました。僕も久しぶりにガッツポーズしていました。
入院中に掛布さんがお見舞いに来てくれたとき、「復活」と書いた色紙を僕に手渡しながら、「横田、これからドラマをつくろうな」という言葉をかけてくれたという話を前にしました。無念ですがこの3年間、試合には一度も出場できませんでした。けれども、このバックホームによって、最後の最後に「ドラマ」をつくることができたのかな――そんなことを思います。