『ハンチバック』は、これまでと違う書き方を試みた面もあります。ライトノベルを書いているときは、次のページでどんなことが起きればおもしろいかを考えて書き進めていましたけど、純文学をやるならもっとレベルを上げていこうと考えたのです。それで次のページどころか、次の1行はどんなことが書いてあればおもしろいかと、毎行ごと考えながら書いていきました。
あらゆる文章を書き飛ばしたりせず、ゆっくりと書いていって、密度とバリエーションを出そうとしてみました。
『型』の有無も意識しましたね。ライトノベルは話の展開にある種のパターンがあるので、型にうまくのせて書きます。ですが純文学のほうは、明確な型がなくてもうちょっと自由度が高い。そこでいろんなテイストを入れ込んでみると、特有のリズムも出てきて、いまの作品のかたちになっていきました」
重度障害者だって、もちろん本を読みます
――「わかりやすくておもしろい」を追求すると同時に、『ハンチバック』は社会問題にはっきり物申す「プロテスト小説」でもあります。硬軟取り混ぜた話にしたり、ご自身を投影させた重度障害者を主人公とすることは、書き始めた当初から決めていたのでしょうか。
「はい。『ハンチバック』を書くきっかけは、通っていた通信課程大学での卒論リサーチです。障害者や差別の歴史を調べていて、いらだちを感じることが多々ありました。
とくに、日本の読書バリアフリー環境の遅れは目につきました。障害者の読書を想定せず、電子化されていないものが多い。重度障害者だってもちろん本を読むということに気づいてもらうために、いろんなものを書く重度障害者の主人公・釈華を設定し、自分を投影させました。
当時者が当時者として書く『当事者表象』をしようと決めたわけです。重度障害者で、プロを目指して小説を書いている人は珍しいでしょうから、これは自分がやるべきだろうと思いました。