『ハンチバック』のストーリー後半では、障害者の性の話へと分け入っていきます。そうした問題も大学で学んでおり、問題意識を持っていましたので、これも作品の大事な軸になると考えました。
実際の描写などに関しては、私は『ティーンズラブ』と呼ばれる女性向け性愛作品も書いた経験があるので、問題なく取り組めましたね」
――純文学に挑戦したのは『ハンチバック』が初ですが、ライトノベルなど小説の執筆には長らく取り組んでこられました。なぜ小説がよかったのでしょう。
「小説は文章だけを素材とした最もシンプルな表現ですし、道具も体力もそれほど使わずにできる。それで気楽に続けられる趣味になっていったのだと思います」
次の作品では当事者表象からは離れます
――小説は「趣味」という捉え方なのですか? もっと大きな存在なのかとも。
「たしかに大きい存在なのですが、『ハンチバック』で今年4月に文學界新人賞をいただくまで私は、プロとしてデビューを果たせていない状態でした。アマチュアである以上は、自分のやっていることは趣味というふうに捉えるしかないと考えていました」
――新人賞そして芥川賞の受賞を機に、これからは書くことの意味も変わってきそうです。
「そうですね、期待をいただくことも生じるでしょうから、その期待には応えたいと思っています。自分の中に書きたいことはたくさんありますし、すこしでもレベルを上げていきたいという気持ちも強く持っています」
――今後、どんな市川作品を私たちは読むことができるでしょうか。
「いま準備している次の作品は、『ハンチバック』のような当事者表象からは離れたものになります。いろんなものを、いろんな視点で、いろんな角度から書いていきたいですね」
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