出演作は「自分で選びます」
近年は癖のある役を演じることも目立つ。主演ドラマ『ナイルパーチの女子会』(2021年)では、愛読していたSNS日記の作者と出会ってからというもの、相手と関係を深めたいと思うあまり常軌を逸した行動に走るエリート会社員を演じた。この主人公には、極端にストレスがかかると自分の髪を数本まとめて抜く癖があった。演じるに際し、昔、新幹線で自分の前の席に座っていた女性が、新大阪から東京までの間中ずっと髪の毛を抜いているのに気づき、じっと観察した経験が活きたという(『anan』2021年2月17日号)。
役に関して水川は、たとえ自分と共通点があったとしても、そこから設定を広げたり膨らませたりはしないという。《演じる役っていうのは、自分の延長線上にあるものではなくて、自分の範疇をどれだけ超えて想像力を持てるかにかかっていると思うんです。だから、その想像力は磨いていたい》というのがその理由だ(『サンデー毎日』2020年8月16・23日号)。
上記は週刊誌での短期連載のなかでの発言だが、別の回では、《仕事のオファーについては、自分で選びます。やりたいって思うものもあるし、この役はやったことありすぎる役だなと思えば、あまり近しい役柄が続くのはどうなんだろうって考えたりします》とも語っていた(『サンデー毎日』2020年8月30日号)。
激しい官能描写にも臆せず挑戦
その言葉どおり、30代の彼女は作品ごとに新たな役に挑み続けてきた。2018年に主演したWOWOWのドラマ『ダブル・ファンタジー』では、夫がありながら、複数の男性と関係を持つ人気脚本家を演じた。正面から性愛をとりあげた作品に出るのは彼女にとって初めてだった。官能描写も激しいだけに、オファーを受けたときには果たして自分に務まるのかと不安を抱く反面、「こんなチャンスはない!」とも思ったという。
原作は村山由佳の同名小説だが、監督の御法川修からは「台本を信じて演(や)ってみてほしい」と言われたので、あえて読まずに撮影にのぞんだという。原作を読んだのは撮影が終わってからで、《自分が演じたシーンを[引用者注:村山]先生の濃密な描写で改めて読んだら、深い達成感がありましたね。『私はこんな凄い女性を演じた!』叫びたく》なったとか(『週刊文春』2018年6月21日号)。
本作は水川にとって新たな役への挑戦であると同時に、コンプライアンスなどを名目にとかく表現が抑えられがちな昨今の風潮への挑戦という意味合いもあったという。これについて彼女は次のように持論を展開していた。