《今の世の中、なんだか息苦しい閉塞感があって、自由に表現していいはずの映像の世界でさえ、妙な規制がある。性愛のシーンはもちろん、細かいことから大きなことまで表現の幅が狭められていて疑問符だらけ。『面白いと思えること』がどんどん排除されて、無難に事が運びさえすればいい、という時代はとても怖いと思う。こういう“攻めた”作品に参加させて頂いて一人の女優としての『反抗』ができたかな、という気持もあります》(『週刊文春』前掲号)
今秋スタートの朝ドラにも出演
2020年に出演した映画『喜劇 愛妻物語』では、『ダブル・ファンタジー』から役柄がガラリと変わり、夫から執拗にセックスを迫られるも、拒否し続ける妻を演じた。濱田岳演じる夫は脚本家として鳴かず飛ばずで、しょっちゅう妻から罵倒されている。それにもかかわらず、妻はときどき夫の才能に期待しているかのような素振りも示す。水川はそんな両極端な心情を見事に演じ分けてみせた。
『喜劇 愛妻物語』の原作は脚本家の足立紳が自身と妻をモデルに書いた小説で、映画化にあたっても足立自ら監督を務めた。撮影を前に水川は足立から「太ってくれ」と言われ、体重を5キロ増やしたが、「別にウチの奥さんを演じてくれってことではないので」とも言われていた。それでも撮影中には、ワンシーンを撮り終えたあとで足立がポツリと「いまの、奥さんぽかったなぁ」とつぶやくこともあったという(『キネマ旬報』2020年9月下旬号)。それだけ水川の演技が真に迫っていたということだろう。
水川は、足立が脚本を担当する今秋スタートのNHKの朝ドラ『ブギウギ』にもヒロインの母親役で出演する。今年後半はまた、海上自衛隊の潜水艦の副長を演じた映画『沈黙の艦隊』の公開が9月に控えるほか、11月からは、ヒロインを演じる予定がコロナ禍のため延期となっていた舞台『リムジン』が3年の時を経てついに上演される。舞台出演は8年ぶりとなる。
憧れの人からの叱咤激励
舞台には20代前半の頃に初めて挑んだものの、自分には向いていないと一度はあきらめた。それが先輩や仲間から「舞台は鍛えられる」とアドバイスされ、2013年に『激動―GEKIDO―』で舞台に再挑戦した。この公演には憧れの宮沢りえも観に来てくれ、「もっとむき出しなさい、感情の温度が全然足りていない。あなたはできるんだからちゃんとやりなさい」と叱咤激励されたという(「朝日新聞×マイナビ天職 Heroes File」前掲)。
それからさらに10年が経った。活動の分野も演じる役も幅を広げた水川あさみは、憧れの人に着実に近づきつつある。