幼い頃からほとんどの時間とエネルギーを野球に注ぎ込めたので、憧れのプロ野球選手になれたんだと思っています。
そりゃ今の時期の暑い夏なんかには海にも行きたかったし、山とか川にも行ったりして、バーベキューなんかしたらきっと楽しい夏休みを過ごせたんだろうなぁ……とグラウンド以外で過ごす、もうひとりの自分をよく妄想していました。おおよそのプロ野球選手は、そんな思いを募らせながら、野球に明け暮れていたに違いありません。
中堅・ベテラン選手が守備でミスをしてしまう理由
思い返すと、入団して間もない頃は、まず一軍の表舞台で活躍するために無我夢中で練習していました。「頭」で考えるというよりは、まず「体」で覚えるのが先決。だから、守備でのフライ捕球なんかは、サバンナを駆けずり回って獲物を追う野生の動物のような動きのイメージを理想にしていました。
ブルース・リーの言葉である「考えるな、感じろ」みたいに、五感を研ぎ澄まして考えなくても動けるようになりたかったです。まさに「本能の赴くまま」といった領域を目指していました。今のドラゴンズで言うなら、まだ若い岡林勇希選手、ブライト健太選手なんかは、今はそこを目指して取り組む姿勢で良いのではと思います。
しかし、まったく考えなくていいのかと言うとそうではなく、あらかじめプレーの行われる手前の備えている段階では、ボールが来たら「あーしてやろう。こうしてやろう」と何通りもの打球を予測して考えています。それでいざボールが飛んできたら無意識下でプレーが完結してしまう。それが私のスタイルでした。
しかし、そのスタイルも、試合の勝敗を左右する、痺れるような緊迫した場面で経験を重ねていき、中堅やベテラン選手と呼ばれるようなキャリアになっていくとどうなるでしょうか。実はここに、中堅・ベテラン選手が守備でミスをしてしまう理由が隠されています。
私の場合、守備で備えている予測の段階で、考え方が「あれしてはダメ、これしてはダメ」とやってはいけないプレーの方を優先するような考えに移行していってしまいました。
具体的な例を挙げてみましょう。例えば試合の終盤、一塁ランナーがホームに帰るとサヨナラ負けのケースで、レフトを守る私の頭上を超える大きな当たりが飛んできたとします。打った瞬間から「捕れるかもしれない」と良いスタートを切り、フェンス際まで伸びていく打球を一目散に追っていきます。ジャストのタイミングでジャンプいちばん飛びつくも、グローブの先わずか数センチ及ばずに捕球できず、打球はフェンスで跳ね返り、そのボールは誰もいないグランドを転々として……。その間に一塁ランナーが一気にホームイン。サヨナラ負け。
いくら能力が高くて、その打球に誰よりも速く反応して、追いつけたとしても、捕れないのなら意味がない。「一生懸命やった」とか「よくトライした」などの言葉は私にとってはまったく必要ありませんでした。このケースでの目的は一塁ランナーをホームに返さないことですから、それを防ぐためなら用いる手段は何でもよかったのです。
そこで私が導き出した「してはいけないこと」への対処法としての考え方は……「もし守っているのが中学生の自分だったら」です。