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この生い立ちは、当然、尊氏の生き方に大きな影響を与えた。指導者としての教育をまったく受けず、立身の可能性もゼロ、「やる気」を出すことさえ禁じられて育った尊氏が、なぜ長じて天下をとることができたのか。
その謎を解くヒントが『極楽征夷大将軍』にあるわけだが、当然、尊氏流「天下のとりかた」は、信長、秀吉、家康とは違ってくる。そして、この尊氏流「天下のとりかた」こそ、令和のいまを生きる(特段の才能もやる気もない)私たちの処世に、大いに参考になるのではないか、というのが本稿の主旨である。
あまりのだらしなさに驚愕
かねて尊氏に興味のあった垣根さんは、史料を読み込むうち、そこに描かれる尊氏のあまりのだらしなさに驚愕したという。
「日本史に名を刻む武将の中で、おそらく一番だらしのない人間だと思う。調べれば調べるほどろくでもない男で、どうしてこんな人間に幕府が起こせたのか、不思議に思った」
そのいっぽう、
「僕自身にもかなりその傾向がありますから(笑)、尊氏のキャラに惹かれる部分もあった」
と、インタビューで語っている。
「だらしない」と自覚のある垣根さんも驚くほどにいいかげんな男が、なぜ天下をとれたのか? 否、むしろ、いいかげんな男だからこそ天下をとれたのではないか? この逆転の発想に『極楽征夷大将軍』の要諦がある。