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「やる気」も「才能」も要らない 足利尊氏に学ぶ「支えてもらうリーダー」のあり方とは

直木賞受賞作『極楽征夷大将軍』の著者・垣根涼介さんに聞く

source : オール讀物

genre : エンタメ, 読書

note

 この生い立ちは、当然、尊氏の生き方に大きな影響を与えた。指導者としての教育をまったく受けず、立身の可能性もゼロ、「やる気」を出すことさえ禁じられて育った尊氏が、なぜ長じて天下をとることができたのか。

 その謎を解くヒントが『極楽征夷大将軍』にあるわけだが、当然、尊氏流「天下のとりかた」は、信長、秀吉、家康とは違ってくる。そして、この尊氏流「天下のとりかた」こそ、令和のいまを生きる(特段の才能もやる気もない)私たちの処世に、大いに参考になるのではないか、というのが本稿の主旨である。

足利市(鑁阿寺)を取材する垣根涼介さん ©文藝春秋

あまりのだらしなさに驚愕

 かねて尊氏に興味のあった垣根さんは、史料を読み込むうち、そこに描かれる尊氏のあまりのだらしなさに驚愕したという。

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「日本史に名を刻む武将の中で、おそらく一番だらしのない人間だと思う。調べれば調べるほどろくでもない男で、どうしてこんな人間に幕府が起こせたのか、不思議に思った」

 そのいっぽう、

「僕自身にもかなりその傾向がありますから(笑)、尊氏のキャラに惹かれる部分もあった」

 と、インタビューで語っている。

「だらしない」と自覚のある垣根さんも驚くほどにいいかげんな男が、なぜ天下をとれたのか? 否、むしろ、いいかげんな男だからこそ天下をとれたのではないか? この逆転の発想に『極楽征夷大将軍』の要諦がある。