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個の優秀さだけでは測れない「何か」が歴史の流れの中にはある
垣根さんは、先のインタビューでこうも述べている。
「尊氏よりもはるかに優秀な楠木正成、新田義貞、後醍醐天皇はみんな次々に滅んでいくのに、なぜか尊氏だけが最後まで生き残る。ということは、個の優秀さだけでは測れない“何か”が歴史の流れの中にはあるんでしょう」と。
『極楽征夷大将軍』の巻頭には、「Don’t think,feel. Be water」というブルース・リーの有名な台詞が引用されている。
家督を継ぐことさえ嫌がり、仮病を使って出陣命令を拒む若き日の尊氏は、信長、秀吉、家康のように、勇猛果敢で、知略に富み、自らぐいぐい前に出るリーダーとはまったく異なる。
しかし、やる気も立身欲も野心もない尊氏は、まさしく「水のように」融通無碍に“世間”と一体化し、坂東武士から慕われ、愛され、戦えばなぜか連戦連勝し、弟の直義、家宰の高師直ら能吏に手厚くサポートされて、ついに幕府を開くに至るのである。
この尊氏の姿は、令和に生きる私たちの心にどこか響いてこないだろうか。
「尊氏みたいになりたい」
そんな人にとって『極楽征夷大将軍』は必読の一書となる。