撮影技術や経験を超えて“その人にしか撮れない写真”というものがある。クマを追いかけて50年、日本ツキノワグマ研究所所長の米田一彦さん(74)が撮るクマの写真がまさにそうだ。秋田県出身の米田さんは大学卒業後、秋田県庁に就職し、ツキノワグマによる被害対策に携わった。
「当時、クマの管理といえば100%駆除を意味しました。行政も研究者も誰もクマのことをよく知らなかったんです」
そこで米田さんは自らの足で森に分け入り、クマの生態を学んだ。やがて県庁を退職してフリーのクマ研究者となり、「クマ研究の空白地」だった広島県に移り住んだ。
その間、森の中で生きるクマの生の姿をカメラに収めてきた。
「それをニコンサロンに応募したら通って、なぜか個展を開くことになっちまったという次第です」
米田さんの写真を見て驚かされるのは、クマとの距離の近さだ。中には5メートルほどから撮影したものもあるというが、危険を感じたことはないのだろうか。
「もちろん緊張はしますが、怖くはないですね。長年の経験で、クマとの“間合い”のとり方はわかっていますから」