「えっ、少年院の子供たちを山に連れてきたいですって……」「やっぱり駄目かな……」
顔なじみの刑務官から、少年院の団体客の受け入れを頼まれた、箱根・金太郎茶屋の勝俣睦枝(かつまた・むつえ)さん。彼らを受け入れたことで、彼女が手に入れた「人生最高の思い出」とは? 山で暮らす人ならではの信じられない実話を丹念に拾い集めた『山小屋主人の炉端話』より、一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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少年院からやってきた登山者
「えっ、少年院の子供たちを山に連れてきたいですって……」
たいていのことには驚かないが、そのときばかりは驚き、思わずその人の顔を見てしまった。山にはさまざまな登山者が来るが、少年院は初めてだった。
「やっぱり駄目かな……」
その人は少しがっかりしたような顔をした。ときどき山に登ってきては、茶屋で休んでいく人だったので顔なじみになってはいたが、詳しいことは知らなかった。いつものように天気の話などをしているうちに、「今度、うちの子供たちを山に連れてきたいけど、いいかな」と切り出したのである。
「いいじゃないかい、どんどん連れておいで。何人もいるのかい」
「ええ、12、3人ほど……」
思わず笑ってしまったが、
「どこかの学校の先生なんですか」
よく訊いてみると、小田原にある少年院の刑務官だった。
「いつも子供たちは狭い室内にいるから、たまには明るい自然のなかに入って、山の解放感を味わってもらいたい。そうすれば少しでも心が晴れると思うんです。そして、できれば、この茶屋を休憩場所にして食事をとりたいんですが……」
最初、びっくりして聞いていた私だが、話を聞いているうちに次第に落ち着いた。同時にこの人の心意気を感じ、協力したい気持ちになっていた。