「慣れない人は手を出さないほうがいいと思うよ」と私はいったが、結局は刑務官たちが運ぶことになり、登山口まで行った。
出だしはよかった。道が広く、傾斜も緩い。「楽勝」といって笑顔も出た。が、次第に傾斜がきつくなり、坂道ではずるずると下がってきた。だんだん真面目な顔になり、仕舞いには無理だ、などといっていた。手をこまぬいている彼らを見ていった。
「試しに私が背負ってみますから、落ちそうになったら、支えてください」
私は冷蔵庫の下にもぐり、ロープで固定すると、腰に力を入れてグッと持ち上げた。思った以上に重かったが、4人に支えられていると思うと気が楽だった。一歩ずつ、慎重に急な斜面を登っていった。急なだけでなく、道が狭いため、ぶつけないようにするのが大変だったが、刑務官たちが指図してくれた。
「そうさ、あたしゃ金時の山姥だよ」
ときどき休憩した。再び立ち上がるとき、持ち上げてくれた。ひとりでは絶対に持ち上がらなかった。
こうして冷蔵庫は、1時間半かかるところを2時間半かけてようやく茶屋に運び上げることができた。茶屋で汗を拭きながら、「勝俣さんって力あるんだね」と刑務官が驚いている。
「コツなんだよね」といおうとしたが、「そうだね、いざとなったら、女のほうが力があるかもしれないね」といった。
「まるで……」
「まるで山姥だといいたいんでしょ」
刑務官はあわてて顔の前で手を振ったが、
「そうさ、あたしゃ金時の山姥だよ」
そういうと、皆で顔を見合わせて大笑いになった。
その1週間後、予定どおりに刑務官が子供たち12人を連れてきた。茶屋で今か今かと耳をすませていると、下から笑い声が聞こえてきた。
「着いたぞ……」