怖い話に仏教説法を織りまぜて語る、新感覚の「怪談説法」で人気の三木大雲住職。『怪談和尚の京都怪奇譚』シリーズは第6弾まで刊行、YouTube「三木大雲チャンネル」は登録者数26万人を数え、コミカライズ第2弾『怪談和尚 妖異の声』も発売された。
京都の蓮久寺に三木住職を訪ね、新刊の読みどころ、怪談説法の創作秘話、宗教家として現在の世の中をどう捉えているかまで、幅広くお聞きした。
【マンガ】「怪談和尚」第1話から読む
封印してきた怪談話
──『怪談和尚の京都怪奇譚』シリーズ(文春文庫)の第6弾「妖幻の間篇」が発売されました。最新作の読みどころについて、お聞かせください。
三木 今回、18篇の怪談を収録しました。そのなかに「佐伯くんのタマゴ」という話があります。私の小学校時代の友人である佐伯くんが、いじわるをしてきた中学生に泥団子で「呪いのタマゴ」をつくり、それを壊す。すると、その中学生が事故に遭って入院してしまう、という怖い話です。
実は、この話はずっと黙っていたんです。その中学生に何となく罪悪感があって……。いま私が勤める蓮久寺の修復作業をしているんですが、その最中に、佐伯くんの話がふと頭に浮かんだんです。
以前の本にも書きましたが、夢に大黒様が現れて、そのお告げにしたがって宝くじを買ったところ、1億5000万円が当たった。その資金を元にお寺の修復作業が始まったわけです。これは、「もう書いていいんじゃないか」と大黒様がおっしゃった気がしたんです。
大黒様というと福々しいイメージがありますが、元々は破壊神なんです。持っている小槌は武器で、阿修羅のように三面六臂で、すべてをいったん潰し、新しいものをつくり上げる神様です。あの時の中学生も災厄に遭ったけれども、それを機に立ち直り、良い人になったかもしれない。そう思い直して、今回、本に収録しました。
考えてみると、私の人生そのものが、いったんペシャンコになり、新たに建て直したようなものでした。お寺の次男坊に生まれましたが、継ぐお寺がなく、ドン底の環境になって、初めて大切なものが見えてきた。そこで怪談説法を始め、蓮久寺を継ぐ機会が与えられた。今回もさまざまな怪談話を収録しましたが、「佐伯くんのタマゴ」に象徴されるように、根底に流れるテーマは「破壊と再生」である気がします。
──コミックの最新刊『怪談和尚 妖異の声』も発売されました。原作者としての感想をお聞かせください。
三木 小学生の子に本を渡しても、読んでくれないんです。怪談話といっても、小学生には難しいんでしょうね。ところが、マンガだと興味を持ってくれる。小学生がマンガを片手に「サインください」と言って来ると、凄くうれしいですね。
何よりありがたいのは、水木しげる先生のもとで修業された森野達弥先生が作画を担当されていることです。水木マンガの世界観の中に私が登場人物として入っているのが、夢のようです。
オーストラリアに伯父が住んでいて、水木マンガの大ファンなんですが、その伯父が『怪談和尚』を凄く褒めてくれました。「このマンガは素晴らしい」って。新作の表紙は、水木マンガでお馴染みの「フハッ」にちなんだカットなのですが、きっと気に入ってくれることでしょう(笑)。