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パンツも用意されていた

 タワーマンションの最上階の、もとは別々の2部屋だったのをぶち抜いた、すごく広い家だった。ベッドルームは沢山あって、何人も同時に泊まれるようになっている。入って左側が、ジャニーさんの部屋。奥の部屋にはキングサイズのベッドがあり、グレーのストライプのカバーがかかっていた。

 大勢で食事ができるダイニングテーブルのある部屋や、カラオケが備えてある防音仕様の部屋もあった。シアタールームにはゲームが揃っていて、みんなで遊ぶ場所になっている。トイレは3つ。バスルームは2つ。そのひとつはジャグジー付きだった。円柱に埋め込まれた巨大な水槽、マッサージチェアに、大きな冷蔵庫。洗濯機も2つあった。

※写真はイメージです ©iStock.com

 大きなソファが置いてある部屋には、事務所の先輩たちが表紙を飾る『明星』などの古い芸能雑誌がたくさんあった。バーカウンターには高そうな酒が揃っていたが、それは貰い物を並べてあるだけ。ジャニーさんは飲まないし、ジュニアたちが飲んでいるのを見たこともない。

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 ホテルに置いてあるような浴衣がたくさん常備されていて、ジュニアたちが泊まるときはそれに着替える。パンツも、用意されたものに穿き替える。お爺さんが穿くような、ぶかぶかのブリーフ。色は白だった。

 その夜は、ほかのジュニアたちと一緒に、そのまま泊まった。ジャニーさんから肩を揉まれたが、この日はそれ以上のことはなかった。

“暗黙のルール”を知らなかった

 僕はまだ何も知らなかったから、“暗黙のルール”ももちろんわからず、遅くまでずっと起きていた。今日一日の夢のような出来事に興奮してしまって、全然寝られない。心配していたお母さんと遅くまでポルトガル語で長電話をしていた。うるさくて迷惑だろうと思ったので、僕はジャニーさんの部屋から一番遠い部屋にいた。その部屋にはキングサイズとシングルサイズのベッドがあって、僕が使ったのは、シングルベッドのほうだった。

 ジャニーさんは何度か様子を見に来たが、「電話してるんだ」とつぶやいて出ていった。この夜何もなかったのは、長電話のおかげだったのだろう。そう気づいたのは、あとになってからだった。

 僕は長い電話のあとでお母さんにおやすみを言ってから、これから待ち受けているだろうワクワクする未来と、これまでの人生との圧倒的な落差を思いながら、いつしか深い眠りに落ちていった。

ユー。 ジャニーズの性加害を告発して

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