故・ジャニー喜多川氏による性加害を実名・顔出しで告発したカウアン・オカモト氏。その勇気ある行動は、日本社会の巨大な「山」を動かした。
オカモト氏の告発後、ジャニーズ事務所が設置した「再発防止特別チーム」は約3カ月に及ぶ調査の結果、ジャニー氏による性加害があったことを認定。これを受けて、同事務所は9月7日午後に記者会見を開くと発表した。
ここでは、オカモト氏の著書『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋)を一部抜粋して紹介。告発を決意した経緯を明かした。(全4回の4回目/最初から読む)
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もう自分に嘘はつきたくない
スタートは豊橋のブラジル団地。日系ブラジル人の子として生まれた僕は、小学校ですでに疎外感を覚えていた。ブラジル人でもないし、日本人でもない。それがずっとコンプレックスだった。外国人扱いされるがゆえに、結果を出さないと認めてもらえないし、ラブレターを渡しても側溝に捨てられる。もうこれ以上、誰からも嫌われたくない。そうした思いは小さい頃からずっと自分の中にあった。
ジャニーズ事務所に入ってからもそうだった。もっともっと売れたい。ジャニーズに恩返しをしたい。もちろん親にも恩返しをしたい。ブラジル人としても日本人としても生きていきたい。出会った人たちみんなの思いを平等にすくっていきたい。そのためにはスターになるしかない。そんな自分の中のルールに縛られ、その上でどうやったら実現できるのかを頭の中で死にもの狂いで考えていた。
その一方で、ジャニーさんの性加害など、闇の部分には目をつぶってきた。自分の過去を隠したまま生きてきた。
実際にはそんなに上手くいくわけがなかった。ジャニーズ事務所を辞めて、音楽で世界を目指そうとした。でも結局は生きていくため、その場しのぎのビジネスをやらざるを得なくなった。次々と仲間も離れていった。
みんなに認めてもらいたいとか、恩返しをしたいとか、傲慢でしかなかった。それが最大の間違いだった。自分としては考えに考えてやっていたつもりだけど、このままだったら30歳になっても、何歳になっても失敗し続ける。
だから、これからは、もっとシンプルに考えることにしよう。
そう思ったとき、真っ先に頭の中に浮かんだのは、
「もう自分に嘘をつきたくない」
という思いだった。
きっかけはキンプリだった
本当の自分を隠して頭だけでゴチャゴチャ考えたものは、無理に取り入れない。自分の心の声にまっすぐ耳を傾ける。嫌だと思ったら関わらない。すぐに離れる。これからはいかに自分に正直になれるか、そこだけに集中して生きていこうと思った。
すぐにスターになれなくてもいい。
ブラジルに行けなくてもいい。
日本で活動できなくてもいい。
自分が納得できる音楽を作るために、必要なことだけをしよう。
そう強く決心してしばらく経ったあとに流れたのが、キンプリの3人がグループを脱退してジャニーズ事務所を退所するというニュースだった。