故・ジャニー喜多川氏による性加害を実名・顔出しで告発したカウアン・オカモト氏。その勇気ある行動は、日本社会の巨大な「山」を動かした。

 ここでは、オカモト氏の著書『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋)を一部抜粋して紹介。ジャニー氏との「異例の初対面」をふりかえる。(全2回の1回目/続きを読む

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【事の経緯】「あ。僕だよ。ジャニーだよ」という電話が見ず知らずの番号からかかってきたのは、2012年2月の早朝だった。

 当時、オカモト氏は愛知県在住の中学3年生。音楽の道での成功を夢見る彼は、その足掛かりとして東京のモデル事務所に登録。そして、マネージャーの人脈によって、ジャスティン・ビーバーの名曲『Baby』を歌う姿を録画したDVDと音楽への熱い思いをつづった手紙が、ジャニー氏のもとに届いていた。

 突然の電話に驚くオカモト氏をよそに、ジャニー氏は「今日、国際フォーラムでSexy Zoneのライブやってるから、来て」と言った。オカモト氏はこのチャンスを逃すまいと東京行きを決意した。

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「いつも通りにやりなさい」

 僕はお母さんからそう言われて、家から送り出された。服は上から下まで、ジャスティン・ビーバーがドキュメンタリー映画『ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー』で着ていた衣装にそっくりにした。これもお母さんのアドバイスだった。

 新幹線に飛び乗って、東京国際フォーラムに着いたのは、たしかセクゾのその日2回目の公演の前後だった。ジャニーさんからは「警備員の人に言えばいいから」と言われていたので、大勢の女の子をかき分けて警備員さんのところへ行き、「すみません、カウアンですけど」と声をかけた。そしたら、「岡本くん? お待ちしていました。どうぞこちらへ」と言われた。それまで心のどこかで疑っていた僕だったが、恐怖感とワクワク感が同時にこみ上げてきて、その瞬間、覚悟を決めた。

 そのまま中の方へ進んでいくと、ソファにジャニーさんが座っていた。

©Getty

ジャニー氏との初対面

 見た目は、キャップを被った160センチくらいのただの小さなお爺ちゃんだ。だけど、オーラがすごかった。

「お疲れ様です」

 と挨拶したら、

「ユー、遅いよ」

 と返された。

 右隣には185センチくらいの大柄な男の人がいた。帽子を目深に被っていて“圧”がすごい。TRFの元メンバーで、ジャニーズの振付師として有名なサンチェさんだった。

 サンチェさんに聞かれた。

「カウアンくん?」

「あ、はい。場所がわからなくて遅れてしまいました」

 そしたら、ジャニーさんが突然こう言った。

カウアン・オカモト氏 ©文藝春秋

「とりあえず歌ってもらっていい?」

「あっ、いまですか?」

「そう。いま歌って。ここで歌うのは恥ずかしい?」

「見学に来て」と言われたのだが、最初から歌わせる気だったに違いない。

 あとからわかったが、ジャニーさんといるときは、常に試されているのだ。

 僕は度胸があるほうだと思うけど、その僕でもテンパるようなことを言ってくる。そんな状況でも「やれます」という人間を、買ってくれるのだ。

 近くの会議室みたいな部屋に一緒に入り、2人を前に、『Baby』をアカペラで歌った。