ライブ会場に広がるざわめき
お客さんは「大物ゲストが来ている」「ジャニーズの先輩タレントに違いない」と思うのが普通だろう。そこへ鳴り響いたのは、
「岡本カウアン!」
という呼び込みの声。
「え? 誰?」
とザワつく会場。
「このジャスティン・ビーバーみたいな子が、ジャスティン・ビーバーを歌うんです。初舞台なので、みんなも聴いてください!」
と紹介され、僕は『Baby』を歌った。しかもアカペラで。
フルコーラス歌ったのか、間違えずに歌えたのか。
緊張しすぎて、拍手されたこと以外、ほとんど記憶がない。
傑作だったのは、舞台から下がったとき、Sexy Zoneのバックについている100人くらいのジュニアに拍手でお出迎えされたこと。みんなたぶん、「誰なんだろ、こいつ」と思っていたはずで、「もしかして、ジャスティン・ビーバーの親戚?」とファンの中で噂になっていたらしい。
「ユー、とりあえず、ご飯行こうか」
僕の出番が終わって舞台裏に戻ると、ジャニーさんが待っていて、
「ユー、とりあえず、ご飯行こうか」
といきなり誘われた。
“え。ライブ、最後まで見ないの?”
と思ったけど、
「もういいから、ご飯に行こう」
とジャニーさんが言うので否も応もない。
ジャニーさんが運転する白いベンツに乗せられて向かった先は、青山のイタリアンレストラン。あとで知るのだが、そのイタリアンはジャニーさんが住むマンションの近くにあって、ほかのジュニアたちもよく食べに来る店だった。
当時すでに80歳を超えていたジャニーさんの運転はとてつもなく荒かった。
急発進、急ブレーキを繰り返すので、めちゃめちゃ怖いのだ。Uターンの際に縁石に乗り上げることもあった。さすがに危ないと周囲も止めたのだろう。僕が入所して1年くらい経ったときには自分で運転することはなくなっていた。僕が辞める2016年頃には、車椅子も使うようになっていた。
その日は、ほかのジュニアたちとレストランで合流し、食べ終わるとそのままみんなでジャニーさんの家へ行った。