2000年、六本木で働いていた英国人女性ルーシー・ブラックマンさん(21歳、死亡当時)が行方不明に。のちに神奈川県三浦市内の海岸にある洞窟で発見された彼女の遺体は、陵辱のすえにバラバラに切断されていた。
捜査一課の刑事たちは丹念な捜査の結果、会社役員・織原城二(48歳、逮捕当時)の犯行であることを突き止める。織原はオーストラリア人女性カリタ・リジウェイさん(21歳、死亡当時)をも殺害したとみられ、それを糸口にルーシーさん殺害事件の真相を究明しようとするのだが――。
ここでは捜査に携わった刑事たちが事件の真相を語った『刑事たちの挽歌〈増補改訂版〉 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』(髙尾昌司 著、文春文庫)を一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/前編を読む)
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「これは、殺しだ。織原に殺意がなかったとしても、準強姦致死事件であることは間違いない」
新妻管理官から報告を受けた有働理事官も、直感的にそう思った。
織原がカリタに陵辱の限りを尽くしているビデオテープがあることを知った有働は、その映像を何度も見つめながら捜査のプランを練った。
ビデオテープに記録された「犯行」
カリタは着衣を剝がされた状態で映り込み、両手両足が紐でベッドの四隅に括りつけられている。ときどき手足をバタつかせているのは、抵抗を試みているからなのだろうか。顔色は蒼白で表情というものがない。
部屋の3か所に設置されたカメラの画角などは、リモコンでコントロールできる。照明が獲物の白い肌を照らし出す。
黒の目だし帽を被った小柄な織原が、画面の端から素っ裸で現れた。このシーンだけを見れば滑稽な状況だが、あとに続く卑劣な行為が想像できるだけに、カリタが哀れでならない。
織原が、褐色の薬瓶からタオルに染み込ませている液体はなんだろう。ベッドの上で横向きに寝かされたカリタの顔近くにそのタオルを置く。速乾性の液体だからなのか、織原は何度もその液体をタオルに染み込ませた。