2000年、六本木で働いていた英国人女性ルーシー・ブラックマンさん(21歳、死亡当時)が行方不明に。のちに神奈川県三浦市内の海岸にある洞窟で発見された彼女の遺体は、陵辱のすえにバラバラに切断されていた。

 捜査一課の刑事らによる執念の捜査の結果、会社役員・織原城二(48歳、逮捕当時)が真犯人であること、ルーシーさんの他に織原による性犯罪の被害者は200人以上いることが判明。その手口は、アルコールや薬物によって女性を昏睡させ、暴行する様子を撮影するというものだった。押収したビデオテープに記録されていた卑劣極まりない行為の一部始終とは――?

 ここでは捜査に携わった刑事たちが事件の真相を語った『刑事たちの挽歌〈増補改訂版〉 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』(髙尾昌司 著、文春文庫)を一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む

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 ビデオテープの映像を解析していた阿部管理官は、内容があまりにも卑劣極まりなく、行為そのものが酷いことから、怒りを通り越して織原の人間性を疑った。

 撮影場所は逗子にあるマンションの一室で、自ら買ってきた果物や出前の寿司などをテーブルの上に置き、それらを女性と一緒にリビングルームで食べ、酒を飲み、冗談やたわいのない世間話をしている様子がビデオテープに録画されている。

 備え付けのカラオケでお互いに歌ったりした後で、女性がぐったりとすると、体を揺すったり、名前を呼んだりしているが、やがて女性を抱えて寝室に運び、ベッドに寝かせる。

©iStock.com

卑劣すぎる犯行の一部始終

 織原の部屋の捜索では、女性を映すためのビデオカメラ3台が、それぞれ三脚に載せられ、手元のリモコンで操作できるようになっていたことがわかっている。

 頭からすっぽりと目だし帽を被った織原らしき男が映像に登場し、その男がハンドライトで女性の身体を怪しげに照らし出す。

 織原は被害者のバッグなどを漁り、戦果を誇るかのように免許証やパスポート、IDカード、健康保険証など、身元を証明できるものを映していた。相手が誰だかわかるようにしてから行為に移るのだ。

 ある女性への行為は6時間以上にも及んでいた。

 ビデオテープに収められた被害者は、ケティ・ブラウンも含め、外国人女性、日本人女性あわせて数十人に及ぶことがわかった。

 ビデオテープや写真には日付が記されており、犯行は古いもので1992年(平成4年)2月から始まり、2000年(平成12年)7月まで続く。しかし、ルーシーの映像だけは、どれだけ探しても発見することができない。阿部管理官は焦る思いで、織原とルーシーの接点を見出そうとしていた。