1ページ目から読む
2/5ページ目

織原が取調室で語ったこと

 留置場から取調室に連行してきた織原を、捜査員は折り畳み椅子に座らせ、両手錠の鍵を外して、腰縄を椅子に括り付ける。

 捜査員と入れ替わりに山代と井ノ口が部屋に入った。

「コーヒーでも飲むか、と言いたいが、これも近頃うるさくなって、自白強要とかで裁判にならないのさ。だからお茶で我慢してくれや」

ADVERTISEMENT

 と井ノ口が織原に言う。

「いただきます」

 織原は嬉しそうに頼んだ。

 井ノ口が織原の前に湯飲みを置く。

「喉でも湿してから話を聞こうか。夜はよく眠れたかい」

 山代が落ち着いた声で尋ねた。

「あまり寝られなかった、ですね」

 織原は他愛のない雑談には快活に応じる。

「昨日の検事調べ、まったく酷い。長野検事でしたっけ、私の話なんか取り上げてくれず、自分の想像したでっち上げを押し付ける。本当に気に食わない。腹の黒い嫌な検事ですよ」

 織原は長野検事の鋭い追及に、辟易した様子でこぼした。

 山代は織原の愚痴を笑いながら聞いていた。

「それはそうと、慶應高校を卒業して、大学までのエスカレーターに乗らないで、アメリカのさ、ハワイだっけ、大学に行ったのは、お金持ちの気紛れかな」

 山代は揺さぶった。

「違いますよ。父親が死んで、ちょっと考えることがあったからですよ」

「それで帰国して、慶應大学経済学部の通信教育課程を受験したのか」

「ええ、そうです。学生でありながら事業をしていたので、通信教育を選択したのです」

「だがあんたはその受験に替え玉を雇った。謝礼は20万円だったとか。それが本当の話なら問題じゃないのか」

「噓です。誰がそんないい加減な話をしているんですか。冗談じゃない」

「噓か本当かは、あんたが一番知っているはずさ。20年以上前の話だ。誰も覚えていないと思っていても、その誰かが重要な手掛かりを覚えていれば、我々はどこまでも調べるのさ」

「誰が何を知っているんですか。そんな話、でたらめだ」

 織原は気色ばんで言い返した。