それでも山代はたじろがない。織原を茶化すように「学歴詐称、虚偽申告……冗談だけどな」と呟いた。
「そんな馬鹿な」
捜査本部ではすでに替え玉受験を請け負った人物とも接触できていた。
その人物は受験番号や当時の状況等を記憶していた。大学側に確認すると、すべてが一致した。
「ハワイの大学で勉強していたんじゃ、英語は喋れるよなあ」
「ええ、まあ、人並みにですが……」
「その英語力を生かして、外国人女性を口説いていたのか」
織原は無言で抵抗の意思を示した。
「英語だとノーコメントって言うのかい」
山代は独り言のように呟いた。
弁護士たちの「異常な攻撃」
刑事訴訟法では、逮捕してから48時間後までに被疑者の身柄を地検に送致しなければならず、勾留期間を延長するには、裁判所の勾留決定を受けなければならない。期日10日の区切りを一勾留という。
厳しい取り調べは、連日に亘って繰り広げられた。織原も取り調べに対し、苦しい言い訳に終始する。
この頃から捜査本部には、織原の弁護を引き受けた弁護士らが、日替わりで接見を求めて押しかけるようになってきていた。さらに自称受任したという弁護士からは、ファクスや電話による「不当逮捕」の抗議が殺到し、新妻は苦々しく思っていた。
雇った弁護士の横面を金で張り飛ばすような卑しい行為。その金を平伏してもらい、事件を力で捻じ伏せようとする弁護士。いろんな人種がいるものだ、と思う。確かに被疑者の権利は理解するし、尊重もする。だが、このやり方は尋常ではない。
世の中、金で支配できるものではないはずだ。多くの弁護士を見てきたし、知っている弁護士もいるが、新妻の知っている大方の弁護士は常識を持っている。
それに比べ、多額の報酬を受け取り、織原に加担する100人近い弁護士にモラルは感じられない。
頻繁に接見を求める弁護士は後を絶たず、長野検事の権限で時間を指定し、1日に1回、最大1時間以内で認めることとした。
新妻は100人近い弁護士たちが織原に接見を求め、いらぬ知恵をつけていることを山代に伝えなかった。取り調べに予断があってはならないと心配したからだった。
織原と接見した弁護士は、一様にすべて否認を貫き通せとアドバイスしたのだろう。織原の態度は、さらに頑なさを増していく。