2000年、六本木で働いていた英国人女性ルーシー・ブラックマンさん(21歳、死亡当時)が行方不明に。のちに神奈川県三浦市内の海岸にある洞窟で発見された彼女の遺体は、陵辱のすえにバラバラに切断されていた。

 捜査一課の刑事たちは執念の捜査の結果、会社役員・織原城二(48歳、逮捕当時)の犯行であることを突き止める。また、織原による性的暴行の被害者はカナダ人女性ケティ・ブラウンさんなど、200人以上いることも判明。その手口は、アルコールや薬物によって女性を昏睡させ、暴行する様子を撮影するというものだった。

 ここでは捜査に携わった刑事たちが事件の真相を語った『刑事たちの挽歌〈増補改訂版〉 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』(髙尾昌司 著、文春文庫)を一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む

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 被害にあった外国人女性の出身国は、カナダ、イギリス、ウクライナ、オーストラリアなど多岐にわたる。それぞれの女性の国籍や名前はテープや写真などから判明した。丸山直紀管理官は各国大使館に連絡し、すでに帰国していた被害女性の行方を追った。

 帰国していたケティとカナダ大使館経由で連絡を取り、直ちに再来日をお願いする。当然、渡航費用と滞在費は日本政府が負担することになった。

 来日したケティに10月23日、東京地検刑事部特捜担当・長野検事は本人確認のため8本のビデオテープを見せた。ケティは自分が意識不明のときに辱めを受けたこと、テレビ画面に映し出された正視に堪えない自分の姿に驚愕してさめざめと泣いた。悔しさが込み上げて、さらに泣いた。怒りの矛先は織原に向けられた。

写真はイメージです ©iStock.com

「この男を死刑にして!」

 怒りは頂点に達して爆発した。この日、ケティは長野検事の聴取で初めて被害事実を認識し、織原城二を「準強姦罪」で告訴した。

ビデオに記録されていた「犯行事実」

 当初、ケティの聴取では、ケティ自身裸にされた記憶はあるものの、性的行為に関しては覚えていない、と証言したが、薬を嗅がされて意識を失っていた事実が、ビデオテープによって判明したことで、犯行事実が認定できたとし、逮捕時の罪状を「強制わいせつ罪」から「準強姦罪」に切り替えたのだ。「暴行又は脅迫」ではなく「心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」の強姦は、「準強姦罪」が適用される。

 それでも取調室の織原はのらりくらりと弁解に終始し、供述に応じない。

 日々の取り調べ状況は、書記担当から有働理事官の下ヘメモとして上がってくる。有働は山代係長が苦労していることがわかっていた。