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「こりゃ、死んでしまう」21歳女性に性的暴行の限りを尽くし…「ルーシー事件」犯人を追い詰めた“刑事たちの執念”

『刑事たちの挽歌〈増補改訂版〉 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』

2022/12/09

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

note

 服藤は文献を調べていくうちに、クロロホルムの急性暴露が肝障害を引き起こし、それが時に劇症肝炎に移行することや、劇症肝炎罹患後に肝性脳症に移行することがあること、また、劇症肝炎罹患の初期の段階で、「羽ばたき振戦」と呼ばれる症状が見られることを突き止めた。

 ビデオテープに映し込まれたカリタは昏睡状態であることが窺われるにもかかわらず、ベッドで手足をバタつかせていた。これが医学用語でいうところの「羽ばたき振戦」なのだろう。

裏付け捜査を任された「敏腕刑事」

 織原がクロロホルムを用いて陵辱に及び、カリタを死に至らしめたことは、服藤の報告で説明できるようになった。問題は、この裏付け捜査を誰に任せるかだ。

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 特別捜査本部の捜査員たちは、ルーシー失踪事件にかかりきりになっている。カリタの件については別班を編成しなければ人手が足りない。科学的なアプローチとアドバイスは引き続き服藤に頼んだ。

「カリタ事件を解明せずしてルーシー事件には到達せず」

 こう判断した有働の脳裏には、第二強行犯捜査殺人犯捜査二係の笹川保警部の顔が浮かんだ。

ルーシーさんの遺体が発見された洞窟の入り口に供えられた花束 ©時事通信社

「これは笹やんにしか任せられない」

 笹川は捜査二課から一課に移って15年余り経っていたが、汚職事件捜査担当から殺人捜査への配置換えは異例のことだった。

 二課の捜査では証拠の緻密な積み重ねが求められる。笹川の持ち味はそこにあった。

 事実、1991年に発覚した「東京大学医学部技官酢酸タリウム毒殺事件」の捜査でも、笹川の持ち味は十分に発揮された。